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月姫 vs Fate

※本作は『 TYPE-MOON 』の作品をベースにした二次創作物です※

[01]

- 天敵(Death and Sword) -
1


 一年を通じてもっともすごしやすい季節――柔らかい春光が降り注ぐ新都(しんと)の駅前広場で、
(なんだって……)
 衛宮(えみや)士郎(しろう)はガックリと項垂れていた。
 彼が腰掛けるのは駅前繁華街の一角にある公共ベンチのひとつだ。四月上旬の日曜日ということもあり、周囲は人、人、人でごったがえしている。それだけでも辟易(へきえき)するというのに――
(ったく……なんだって…………)
 “天敵”を見つけてしまった。
 “天敵”――そうとしか、呼べない存在に。
(なんでさ……)
 士郎は自然と、見つけてしまった“天敵”の姿に視線を向けていった。
 距離にして約二百メートル先。
 外壁が全て硝子窓になっているタイプのファーストフード店の二階。
 通常であれば顔の判別など不可能な場所。
 そこに、士郎が“天敵”と認識した人物の姿がある。
 テーブルに頬杖をつき、こちらを睨みつけている人物だ。
 年齢は不明。どことなく老人のような落ち着きを感じられるが、ボサついている髪は黒々としており、黒地のシャツに紺色のデニムパンツという恰好も今風の普通の若者のそれだった。肉体的には十七、八歳といったところだろう。顔立ちは比較的整っているものの、度の入っていない伊達眼鏡をかけ、鋭く目を細めているように見える。士郎にはそれが、不快そうに顔をしかめているように見えていた。
(ったく……)
 悪態をつくのも何度目になるかわからない。
 彼にしては珍しいことだ。
 士郎は滅多に他人を嫌わない。相手の九十九パーセントが汚点で構成されていようと、残り一パーセントに美点があれば、悪感情を忘れるところがある。そういう人間なのだ。彼自身も、漠然とだったが、そうであること自覚してもいた。
 だが、何事にも例外があるらしい。
 初見で相性が悪いと感じた人間は、この二十年の人生で三人目になる。
 一人目は、とある神父。
 二人目は、とある王様。
 これで三人目。
 言ってしまえばそれだけのことにすぎない。本当にそれだけだ。それだけのことなのだが――
(ったく! どうしたんだ、俺!)
 士郎はガリガリと赤茶けた自分の短髪をかきむしった。
 今日はせっかくの日曜日だ。それも、ただの日曜日ではない。海外に留学中の大切な“家族”が帰ってきている。しかも滞在日数はわずか一週間。それが終わると、彼女は格安のチケットで、留学先へとトンボ帰りしてしまう。
 次に戻ってくるのは一年後の春だ。
 それまでの間、よほどのことが無い限り、連絡途絶状態に陥る……
(それなのによりにもよってこんな時に……)
「――先輩?」
 不意に近くから声がかけられた。
「うわっ!」
 士郎が驚くと、
「きゃっ」
 相手も驚いた。
「あっ――いや、ごめん」
「………………」
 目の前に立つ女性は大きな紙袋を抱えたまま、恥ずかしそうの顔をうつむかせてしまった。
 通りすがる男性たちが、ついつい、そんな彼女の姿を目で追いかけている。身なりが理由ではない。今の彼女は白いブラウスに丈が膝下まであるロングスカートを履くという、どちらかといえば地味な服装をしていた。しかし、春風にサラリとなびく濃紺のロングストレートといい、絹のような白い肌といい、ほっそりとしていながら女性特有の曲線を備えているところといい――その全てが“女”を感じさせる何かを発していた。
「すみません、先輩。遅くなって……それに驚かせちゃったみたいで…………」
 彼女は心からすまなさそうに小声で士郎に謝りの言葉を告げた。
 士郎の頬が自然と緩んでいく。
「違うだろ」
「――えっ?」
「だから、約束しただろ? 先輩後輩は卒業しようって」
「あっ……」
 途端、彼女の顔は傍目にわかるほどポッと赤くなってしまった。
 こういうところは昔から何も変わっていない。それでいながら夜になると別人になる。それもまたたまらなく(いと)おしい。表も裏も、なにもかもひっくるめて全てが(いと)おしくてたまらない。
()れた弱みだな)
 士郎はそう思いながらベンチを離れ、恋人の前に立った。
「ほら」
 彼は赤面する彼女を促した。
 困り果てた彼女はチラチラとそんな士郎の顔をのぞき見上げる。
 数秒後、彼女は決意を固めた。
 唾を飲み込み、新鮮な空気を吸い込んでから、何よりも(いと)おしい恋人の顔を見上げ――
「……士郎……さん…………」
 その瞳が、少し嬉しそうに細められた。
 途端、今度は士郎の顔がボッと赤らんだ。
 顔を逸らしたいが、それでは彼女に悪いのでグッと口元を引き締め――
 だがこれでは怒っているような見えるだろうからと鉄面皮を決め込もうとし――
 それも成功できず、唇はキュッと引き困った形になって――
「――プッ」
 思わず彼女は吹き出してしまった。
「……笑うことないだろ」
「だって――」
 士郎の恋人――間桐(まとう)(さくら)は口元を抑えつつクスクスと笑い続けた。
 決して忘れられない“あの戦い”から二年――彼女は楽しげに笑えるまで、立ち直っていた。

To Be Continued

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