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ONLINE : The Automatic Heart

[04-07]


―― Login Account : 436-332-2004-9719
―― FAL Check : .....OK
―― Bital Check : .....OK
―― Login Check : .....OK
―― Login Time : 22,July 20X0 09:00:01
―― Limit Time : 22,July 20X0 12:00:01
―― Contents Code : PHANTASIA ONLINE ver C2.0103
―― Abator Name : SHIN
―― Login Place : BLUEPOLIS / CENTRAL CIRCLE / LOGIN BOX 03
―― Login Sequence : .............................. complete

 目覚めるといつものログインボックスの中だった。
 金髪に浅黒い肌、瞳孔が縦長になっていることを除けば、実体そのままの外装――身につけているものは《シャークウェア》、《ショックシューズ》、《ハーフパンツ》、《ハーフレザージャケット》、《ガンベルト》に《バーストガン》、両腕両脚に《スケール・オブ・ブルードラゴン》という冒険装備。さらに俺は、思考操作で《アイマスク・オブ・アサシン》を取り出し、これを装備した。
 鏡には目隠しをつけた自分(SHIN)が映り込んでいる。
 だが、視界は塞がれていない。
 やはり妙な感じだ。
「慣れるまで時間かかるかもなぁ」
 俺はそんなことをつぶやきながら、ボックスの外へと出ていった。
「遅いっ」
 すでにリンは、外で待っていた。
 傍目にはいつもの同じ冒険装備に見えるが、目を凝らすと、顔の周囲に白いワイヤーフレームが浮かび上がっている。《アイマスク・オブ・アサシン》を付けている証拠だ。
「ほら、行くわよ」
「うーしっ、行きますかっ」
 俺たちは無人に近い中央広場から神殿へと向かった。
「でも意外よねぇ。こんなに誰もいないなんて」
「全員、抗争に参加するつもりなんだろ」
「だよねぇ。騎士団のせいで盛り上がって……あっ、NPC(マネキン)
 中央通りに無数のNPCがワラワラと姿を現し始めた。大きさも様々なら服装も様々。開店準備を始めているNPCもいれば、手をつなぎながら歩く母子らしきNPCもいる。荷物を運んでいるNPCも多い。
「へぇ……こんな感じになるんだぁ」
 リンも驚いているらしく、感嘆の声をあげていた。
「なんか、ワクワクしてこない?」
「そうか?」
「なによ、あんただって、顔、にやけてるじゃない」
「そうか?」
 顔に触れてみると、確かに締まりがなかった。
 ワクワクしないと言えば嘘になる。これから、誰も踏み込んだことのない新しいフィールドに行こうというのだ。しかもその果てには、スタッフが俺たちのために用意した最強の敵が待ち構えている。これで盛り上がらずに、なにで盛り上げれというのか。
 俺たちは神殿に到着すると、いつものようにNPC神官に近づき、転移先選択ウィンドウに増えていた新しいフィールド――“百諸島(ハンドレッド・アイランズ)”を選んだ。
 さぁ、新しい冒険の始まりだ。


━━━━━━━━◆━━━━━━━━


 転移した俺は“ HANDRED ISLANDS - PANTEON ISLAND”のログインボックスを出た。
 蒼都と同じ、濃密で爽やかな潮風が吹き付けてきた。
「おーっ」
「うわぁ」
 隣りのボックスから出てきたリンも声をあげている。
 ボックス所在地は神殿島(パンテオン・アイランド)と名付けられているが、そこにあるのは朽ち果てた古代ギリシア風の古代遺跡だけだ。しかも小高いところに建っているらしく、周囲の光景を一望することができる。これだけでも見応えがあるのだが、それ以上に周囲の光景がすごい。
 丘上にある古代遺跡の外側には、緩やかに降っていく針葉樹林が広がっている。その外周には砂浜が広がり、さらにその先には無数の島影と共に、キラキラと輝く美しい南国の海が彼方まで続いている。
 ゲーム内時刻と影の位置から類推すると、どうやら島の東西には石組みの港が広がっているらしい。ただ、建物はすべて倒壊しており、沖合いまで伸びる防波堤にも、時の流れを感じさせる数々の残骸が転がっている。
 神殿島というより遺跡島といった感じのところだ。
「なんかすごーい……」
「だな」
 俺は《ハルバード》を具現化させ、右肩に担ぎながら、改めて周囲を眺めてみた。
「よくもまぁ、これだけのもの、作り上げたもんだ……」
「ねぇ、どうする?」
「どうするって……とりあえず、適当に歩くしかないだろ?」
「だね」
 リンも具現化させた《ハルバード》を肩に担いだ。
 俺たちは景色に見とれながら、とりあえず真っ直ぐ降る半ば壊れた石の階段を伝い、真正面の砂浜へと降りていった。
「なんか、泳ぎたくなってこない?」
 砂浜に降り立つなり、リンが両目を輝かせながら俺を見上げてきた。
「泳ぐのかよ」
 そう言い返したが、気持ちはわかる。
 ゴミひとつ無い白い砂浜。海はどこまでも透明で、小波はとても静かに寄せては返し、また寄せては返しと続けている。ここが仮想現実(ヴァーチャル)の中であることを忘れてしまいそうなほど、すごい光景だ。
「だってほら、海だし。ビーチだし」
「いずれ、な。とりあえずここはフィールドだってこと、忘れんなよ。ゲームだとたいてい、砂浜に近づけば、魚のモンスターが襲ってくるもんだし」
「……違うみたいだけど?」
「んっ?」
 俺はリンが見ている方向を眺めてみた。
 しばらく、目が点になった。
「ええっと……」
 俺は額を抑えつつ、少しだけ考えてみた。
「ここ、海だよな?」
「巨大な淡水湖かも」
「……かもな」
 そう思わずにいられない原因は――巨大な蛙が、げこっ、と座っていたからだ。それも1匹や2匹ではない。ちょうど砂浜と針葉樹林の間、わずかに芝生が生い茂っているところに、これでもかというくらい大量の巨大蛙が群れていたのだ。
 なかなかシュールだ。というか、不気味だ。
――バンッ!
 リンが問答無用で、《バーストガン》を抜き撃ちした。
 1匹に炸裂。巨大蛙の頭上に“GIANTFLOG(ジャイアンントフロッグ)”という文字とHPバーが出現した。この手のシステム情報は、攻撃を仕掛けた場合のみ、攻撃者と攻撃者のPTメンバーだけが視認できる仕組みになっている。
「やっぱりカエルみたい」
 リンはもう2発撃ち込み、3発目でジャイアントフロッグを倒した。
 他の巨大蛙は動かない。
 ということは、遠距離から狙えば、こいつらは単なる標的になってくれるようだ。
 とりあえず思考操作でウィンドウを展開。
 パーティウィンドウを見てみたが、ドロップアイテムは無かった。
「ドロップは無しか……」
「蹴散らす?」
 リンは、左手に持っていた《ハルバード》を持ち上げてくる。
「だな」
 俺は苦笑しつつ、無造作に巨大蛙へと近づいていった。
 リンも銃を収め、俺に続く。
 相対距離が10メートルほどになったところで、巨大蛙はようやくピョンと飛び跳ね、俺たちに向かって突進してきた。それほど速くもないので、近づいてくるそばからリンとふたりで蹴散らしていく。
「やっぱり生物系って刃物に弱いんじゃない?」
「っぽいな」
 秘密基地(地下15階以下)で機械系モンスターとさんざん戦いまくったせいもあるが、ようやく俺たちは、武器によるダメージの差というものを実感できるようになってきていた。
 『 PHANTASIA ONLINE 』では倫理的な配慮から、実際に何かを切り裂いたり、何かを突き刺したりする手応えを感じないようになっている。具体的には、ユーザーだけではなく、モンスターにも厚さ1センチほどの不可視のバリアーが張り巡らされているのだ。
 つまり剣で戦っても、実感としては木刀や竹刀で殴り合っている感じに近い。
 まぁ、実際に肉を斬ったり刺したりする感覚というのは、娯楽として提供するには不完全すぎる代物だ。特にPvPでそんなものを経験すれば、トラウマだけではすまない事態が起きる可能性もある。
 誰かがネットで書き込んでいたが、
――居合の達人より剣道の達人が強いゲーム。
 というのが、『 PHANTASIA ONLINE 』における接近戦の扱いだというわけだ。
 もっとも、根本的な問題として、接近戦を好むユーザーはごく一部だ。というより、ほとんどのユーザーがガンタイプを愛用している。当初はそうでもなかったようだが、今では全体の5%ぐらいしか、接近戦魔杖を使っていないらしい。俺が得意とする拳闘型にいたっては、実戦で使っている者は俺ひとりというのが実情っぽい……。
 それはともかく。
 接近戦には接近戦のメリットがある。
 最大のメリットは、弾薬のたぐいをまったく消費しないこと。
 さらに。
「ねぇ。もしかして攻撃の種類、刃物と鈍器と魔法の3つ?」
「刃物、鈍器、銃器、魔法の4種類じゃないか?」
 俺たちは《ハルバード》の斧部でドカドカと巨大蛙を消し去りながら、のんびりとした会話を続けていた。
 ここまでくると間違いないだろう。
 生物系のモンスターは、刃物で攻撃したほうが、より多くのダメージを与えられる。逆に機械や骸骨などの非生物系は、ハンマーのようなもので殴ったほうが効果的だ。ただ、銃器はどちらかというと刃物に近い武器にも思える。
「銃器って刃物系と一緒じゃないの?」
 リンも同様に感じているらしく、そんなことを言ってきた。
「かもな」
 俺も無造作に《ハルバード》を振り回しながら、最後の巨大蛙も殴り消していった。
 収入はクリスタルのみ。
 ドロップアイテムは無し。
「ちょっと渋りすぎじゃない?」
「でも金のほうは少し緩んでんじゃないのか?」
 俺たちはパーティウィンドウの取得物を確認しながら、なんとなくそのまま島の東へと歩いていった。砂浜が大きく左へと曲がっていくと、途中から砂に半ばまで埋まった煉瓦敷きの道路が姿を現した。その先には、煉瓦敷きの倒壊した港湾施設が広がっている。
「遺跡って言うより、戦後って感じ?」
「だな」
 TVでよくやる第二次関東大震災の被災映像を思い出した。俺たちが生まれた時には、もう東京は半ばまで復興していたものの、毎年8月になると、決まって第二次世界大戦の話とセットで特集が組まれるので、なんだかなぁ、と思わずにいられない。
「あっ」
 と、リンが声をあげたのは、なんとなく近づいてみた廃屋の中に入ろうとした時だった。
 リンの前に1枚のウィンドウが展開している。
「んっ?」
 気になって後ろから覗き込んでみる。
 ショップウィンドウだった。それも、売り物はカード1枚――目の前の廃屋とは似てもにつかない、蒼都にありそうな一軒家が描かれているエクストラカード《4LDK=2F+1B》だった。
「まさか売り物?」
 俺は呆れ声をあげながら廃屋を眺めてみた。
 屋根は無く、壁は崩れ、垣間見える家の中は瓦礫を隠すように雑草が伸び放題といったところだ。間取り的には確かにガーブルタイプと呼ばれる中世ヨーロッパの都市にありそうな奥に向かって細長い家屋の形をしているが……
「その“まさか”みたい。バリアー張られてて、入れないし」
「えっ?」
 見るとリンは、何もない空間を右手で押していた。
 俺も手を伸ばしてみる。
 バリアーの感触がある。例の固いゴムの感触だ。どうやら不可視の壁は廃屋全体を取り囲んでいるらしい。蒼都の未購入物件や非売物件と同じように、ユーザーが余計な悪戯をしないよう、ガードしているという証拠だ。
 でも、こんな廃屋を?
「あ、そういうこと……」
「んっ?」
「ほら」
 リンはショップウィンドウのヘルプを使い、カードの詳細を表示させた。
 カードがウィンドウを半分埋め尽くすように拡大されている。
 値段はたったの1万クリスタル。4LDKの地下付き2階建てとなれば、蒼都でも普通は100万近くしたはずだ。それを思えば、破格どころではない値段に思えるが、ひとつだけ気になるパラメーターが表示されていた。
 HPだ。
 家屋なのにHP。それが意味するところは、ひとつしかない。
「まさか……この家、ぶっ壊せるのか?」
「買ったらそうなるんじゃない? 多分、これがHPゼロの状態で、買えばHPが全快するとか、そういう仕様なんじゃないの?」
「マジかよ……」
 それならば、確かにこの破格ぶりにも納得がいく。
 だが、それでいいのか?
 余計な騒動、引き起こすだけなんじゃないのか?
「他も見てみない?」
「……おい」
 まさか、と思いながら、俺は念のためにリンを(いさ)めようとした。
「買わないわよ」
 わかってるとばかりに、リンは《ハルバード》を収納しつつ答えた。
「ほら、行くわよ」
「へいへい」
 俺は肩をすくめながら、念のために周囲を警戒しつつ、リンの後に付いていくことにした。

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