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ONLINE : The Automatic Heart

[04-06]


 しばらくすると、リンが姿を現した。
「おっどろいたぁ……NPC(マネキン)が話し掛けてくるんだもん。あっ、市長さん。御馳走になります♪」
「はい、どうぞ」
 市長は思考操作で減ったメニューを全て新品に切り替えた。
 リンは物怖じすることなく、俺の隣りに腰掛け、小皿に中華料理ととっていった。
「どうだった?」
「んっ? トレードのこと? バッチリ。問題なし」
 リンがそう告げると、市長がコホンと咳払いをした。
「おふたりとも揃いましたから、昨日の顛末、ご説明します」
「なんだよ。リンのこと、待ってたのか?」
「どうせ話しますよね? それなら、一度に済ませたほうがいいと思いまして」
 なるほど。正しい判断だ。
「まず……《緑》の陣営に登録している外装名“AMATERAS(アマテラス)”と、その推薦者である御尊父には、認証付きメールで厳重注意の文章を送りました。ただ、今のところ私のレベルで対応してあります。本社が動くと、シンくんが逆恨みされる可能性も出てきますから」
「それはどうも。で、仮説の発表は?」
「結論が出るのは週明けです。今は努力してみるとしか言いようが無いんです」
「あっ、そうだ」
 リンが大急ぎでエビシューマイを飲み込み、俺越しに市長を見た。
「わたしとシンって、エルフなの?」
「えぇ、テスターは全員エルフです。もっとも、初期共感率が70%を越えていれば、そう呼んでもいいだろうっていう曖昧な基準に基づけば、という話ですよ?」
「でも、シンはウィザードじゃないんですよね?」
「はい。あなたもシンくんも、まだ共感率100%を超えていません。それなのにどうして、こうもうまく外装を操るのか……そっちのほうが不思議ですよ」
 俺は苦笑した。
「トレーニングしまくったせいだろ?」
「やはりそう思いますか?」
 逆に市長が尋ね返してきた。
 リンを見ると、苦笑まじりにうなずいていた。相棒もまた、同感らしい。
「それ以外に考えられない。そりゃあ、俺たちがとんでもない天才だって可能性もあるけど……でも、なぁ?」
「だよねぇ」
 そうは思えない。俺たちは今の強さを、1ヶ月近いトレーニングと、さらに1ヶ月ほど続けた実戦を通じて手にいれたもののはずだ。
「なるほど。そうなると……」
 市長は少し考え込み、改めて俺たちに目を向けてきた。
「これはまだ内定もしていない話なんですが……おふたりとも、一緒に筑波まで来てみませんか?」
「……えっ?」
「筑波に?」
 俺たちは顔を見合わせた。
「公表は控えていますが、PVの研究中枢が筑波に置かれているんです。それに研究チームも、あなた方に興味を持っていまして……どうでしょう。経費はすべて、弊社が肩代わりします。1週間ほど、筑波で弊社のテストに協力していただけませんか?」
「まぁ……俺は別にいいけど……」
 俺は相棒を見てみた。
「わたしも別にいいわよ。筑波なら、すぐ近くだし」
 東京在住のリンは、軽い調子で、そう答えた。
「そうですか。良かった」
 市長は嬉しそうに微笑んだ。
「もちろん、今後ともテスターとして遊べることは保証します。あぁ、それと、時期については、まだ未定です。できれば、おふたりが長く休める間に済ませておきたいところなんですが、オープンβの準備もあるので……うーん、冬になるかもしれませんねぇ」
「オープン?」
 俺はキランッと目を輝かせた。
「いつからやるか、もう決まってんのか?」
「ノーコメントです」
 市長はサラリとはぐらかしてきた。
「もちろん、オープンβテスト開始に応じ、さらに実装される要素についても答えられませんよ? その前に、あなた方のために用意したものを、どう料理するか見せていただけませんか?」
「んっ? 俺たちのために?」
 市長はうなずいた。
「これはオフレコということで……まず、できればあなた方には、最初の陣営抗争に参加しないでいただきたいんです」
 これには少し驚いた。そういう申し出はしたくないと言っていたのは、他でもない、市長本人だったはずだ。それなのに言ってくるということは、なにか事情があるのかもしれない。
「一応、《緑》にあなた方と拮抗できそうなユーザーがいるにはいるんですが、それ以外は、あなた方が相手だと歯が立たないこと、間違いありませんからね……」
「ネットで“鴉”って呼ばれているヤツか?」
「おっと」
 市長は口を塞いだ。
「今のは無しで。いずれ出会える機会もあるでしょうから、その時までのお楽しみということに」
 俺はリンに顔を向けた。
 相棒は楽しげに微笑みながら、俺に頷き返してきた。
 俺たちに匹敵するユーザーがいる――これは楽しみなんてものじゃない!
「そしてもうひとつ」
 市長は右の人差し指を立てた。
「“百諸島(ハンドレッド・アイランズ)”の東の果てに、あなた方でも簡単には倒せないはずの強いモンスターを配置しておきました。言っておきますが、いかなるイベントとも無関係です。倒したところで得るものはただの記念品のみ。そういう設定にしてあります」
「なんだよそれ」
 思わずツッコミながらも、俺の顔をニヤケまくっていた。
「えぇ、本当に、なんだよそれ、としか言いようがないモンスターです。ただ、他の陣営フィールドにも同じモンスターを配置してあります。《緑》はあの人が挑むことになるでしょうが……《赤》は、難しいですね」
「“姉御”は? 《赤》の最強なんだろ?」
「彼女はPvPのスペシャリストなんです。心理戦に長けているというべきですね。そういう意味では、君たちとの対戦が楽しみな人でもありますが……やはり君と互角となれば、《緑》のCROW(クロウ)さんでしょうねぇ」
 なるほど。外装名はクロウって言うのか。
「そっか……1回でいいから、手合わせしたくなるな……」
「向こうも同じことを言ってますよ。ANE5(アネゴ)さんも、君との対戦を希望してるみたいですが……まぁ、そういうドリームマッチは、それに相応しい場をいずれ用意しますから、その時まで他のところで遊んでください」
「相応しい場?」とリン。「なんのこと?」
「……オフレコですよ?」
 市長は口に指をたてつつ、声を潜めた。
「オープンβテストを始める時に、開始記念のイベントを開く予定なんです。その時に、陣営の枠を越えたトーナメントを開こうって話がありまして……」
「マジ?」と俺。
「えぇ、マジです」
 市長は苦笑した。
「先にお断りしておきますが……その時は、ログイン中の映像をリアルタイムでネットに流す予定です。技術的に難しいところなんですが、ログインユーザー数を制限すれば、どうにか映像と音声を外部に出力することが可能だとわかってきたんです」
「「げっ……」」
 俺とリンは、同時に顔をしかめた。
 実体と外装がほぼ同じ俺たちにとって、それはできるだけ避けたい対応だ。
「まぁ、まだ先の話です」
 市長は声量を元に戻した。
「それまでに顔を隠すアイテムに慣れればいいだけですよ。ええっと……うん、これなんかどうですか?」
 市長はどこからともなく2枚のカードを取り出し、回る台座に乗せ、俺たちの前に来るよう、台座を回してくれた。
「《アイマスク・オブ・アサシン》?」
「目隠しってこと?」
 俺とリンはカードを手にとりながら確かめてみた。
地下(アンダーグラウンド)の15階以下で手に入るレアアイテムです。次のアップデートで入手は不可能になりますが、おふたりには……シンくんには、というのが正しいですね。シンくんには、顔写真の件でご迷惑をおかけしてますから、今回は“ドロップアイテムとして手にいれた”ということで、どうですか?」
「へぇ、こんなカードも手に入るんだぁ」
「だな……」
 俺たちはテキストの部分をじっくりと読み込んでみた。
 《アイマスク・オブ・アサシン》は、細長い黒布に白抜きで目玉模様が描かれているだけのアイテムらしい。ただ、装着すると《ヘルメット》がそうであるように、装着者にはアイマスクが透けて見えるようだ。さらにパーティーメンバーにも、ワイヤーフレームが見えるだけで、透けているように見えるらしい。そればかりか、暗闇の中にいると、目玉模様のところから光が放射されているような状態で、光源が無くとも見通すことができる。つまり今後は地下迷宮(アンダーグラウンド)でも照明いらずで戦えるってことだ。
「ねぇ、シン。どう?」
 見るとリンは、すでに装着していた。
 確かに白い線のワイヤーフレームが見えている。だが、それもよく見ないとわからないレベルだ。ほとんど何も付けていないのと同じといっていいだろう。
 俺も思考操作で装着してみた。
 目元に布を巻いている感触はある。
 だが、視界は塞がれない。
「……うん、透けて見える」
 リンが俺を見ながら告げてきた。
「でも鏡で見ると、違いますよ?」
 市長がそう告げると、テーブルの台座上に大きな鏡が出現する。そこには、目玉模様が白く染め抜かれている黒い目隠しを付けた俺たちが映し出されている。
 なんともまぁ、奇妙な感じだ。
 でも、そんなに悪くない。
 なにより目元を隠せるというのは、それだけで正体を隠すには何かと有効だ。
 ただ。
「自力で手にいれたわけじゃないってところが……ちょっとなぁ」
「そう? 別にいいんじゃない?」
「そうですよ。もし気に入らないというなら、“大型アップデート前までに地下の一番深いところまで潜ったユーザーに対するボーナス”と考えてください」
「んっ? そうなのか?」
「えぇ。《赤》は地下16階、《緑》は地下15階です。あなた方が一番深いところまで潜っていることになります。そのボーナスということで、どうですか?」
 もちろん、断るつもりなんてサラサラ無い。
 俺たちはありがたく、市長の好意を受け取ることにした。


━━━━━━━━◆━━━━━━━━


 ログアウト後、俺とリンは朝飯や朝の洗顔なんかを済ませた上で、IPヴィジフォンで話し合いながら、大型アップデート直前のネット情報をあさりまくった。
〈ねぇ。蒼都スレ、見て〉
「見てる。騎士団のことだろ」
 俺たちはほぼ同時に、その書き込みに気が付いた。

509 名前:RYUNE@蒼海騎士団 ◆VDkL0rJnWq 投稿日:X0/07/21 07:00:01 ID:********

>>《青》陣営の皆様へ

蒼都スレの皆様、こちらでは初めましてになります。
私は今回旗揚げする新氏族「蒼海騎士団」の広報担当官、リューネと申します。
今回は皆様に以下のことを告知いたしたく、書き込ませていただいました。

1)氏族結成式の開催
・本日20時45分、蒼都の通称「ホテル」において氏族結成式を執り行います。
・その場において氏族メンバーの募集も行います。

2)陣営抗争への参加
・本日21時以降に開催される初の陣営抗争に氏族として参加します。
・目標は初抗争における《青》の完全勝利です。
・非メンバーでも抗争時の協力者は大歓迎です

なお、本日より以下のURLにして氏族サイトを開設致しました。
皆様のご来訪、お待ちしております。

http://bluesea.**.jp

〈とうとう表だって動き出したんだ……〉
「おーっ、サイトも凝ってんなぁ」
 氏族サイトとやらに跳んでみると、Flash2を使った本格的なものが表示された。もっとも、訪問者が何か書き込めるようなところはどこにも無い。掲示板も無ければ連絡手段もサイト内のフォームからやるという徹底ぶりだ。
 興味深いのは設立主旨のところ。
――氏族目標は世界征服(笑)
――当面は陣営を代表する氏族を目指し、都市活動と陣営抗争を中心に活動する
 つまり、この2つを避ければかち合わないということだ。
〈へぇ、シン。わたしたちのことも書き込まれてるけど、どうする?〉
「んっ? どこだ?」
〈本スレと紅都スレと翠都スレ。SL(私たち)が出てくるなら抗争には参加しないってユーザーがいるみたい〉
「あぁ……なるほど」
 俺もザッと本スレを眺めた上で、書き込みをしておくことにした。

107 名前:SHIN ◆O4TEsRfEf 投稿日:X0/07/21 08:41:33 ID:********

おはよう、おまえら
なんか俺のことが話題になってるから書き込んでおくわ

・SLは陣営抗争に参加しない
・SLは都市イベントも華麗にスルー
・青だから百諸島に逝ってくる

とりあえず地下の攻略も途中だから、
いずれそっちに戻ると思うわ

んじゃ、そういうことで

〈うわぁ……キターの嵐?〉
「時間が時間だから、暇してる連中が多いんだろ」
〈でも、宣言しちゃっていいの? 百諸島に行くこと〉
「んっ? なんかまずいか?」
〈アンチが追い掛けてこない?〉
「……じゃあ、潰すことも宣言しとくか」
〈あんたねぇ……〉
 呆れるリンを余所に、俺はさらに書き込んだ。

183 名前:SHIN ◆O4TEsRfEf 投稿日:X0/07/21 08:44:47 ID:********

追伸

百諸島で俺たちにちょっかいかけてきた奴は、
たとえそれが偶発的な出来事だろうと、
問答無用で全員ぬっころすので注意するように

以上

ノシ

「まっ、こんなもんだろ」
〈あんたらしいというか……〉
「それより、そろそろだろ」
〈あっ、もう45分か……うん、じゃあ、向こうで〉
「装備はいつも通りのままだよな?」
〈目隠し、忘れないでね〉
 リンはそう言い残すと通信を切った。俺もノートパソコンを閉ざし、念のためリビングにいる母さんに声をかける。
「俺、昼過ぎまでPVやってるから」
「はいはい。ほどほどにしなさいよ」
「3時間だけだって」
 俺は苦笑しつつ部屋に戻り、PVベッドに寝転がった。

To Be Contined

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