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ONLINE : The Automatic Heart

[02-07]


 7回ほどシンを撃ち殺したところで、わたしの鬱憤は随分と解消された。
 その隙をつくように、シンがわたしを殴り殺した。
 でも、最初にあった怒りのオーラは微塵も感じられなかった。途中からシンも、どことなく“わたしの2丁拳銃を攻略する”ことに重きを置き始めたのだ。一方、わたしのほうも、射撃補助線(ガイドライン)すらも避けてみせるシンに“どうすれば当てられるか”を考え続けるようになり……
 つまり、わたしたちは似たもの同士だったのだ。
「ふぅ……」
 わたしはログインボックスで復活すると、溜め息をついた。
 バトルロイヤルで殺されると、正門広場のログインボックスに戻される。わたしはボックスの鏡に額を押しつけながら、しばらくの間、反省してみた。
 悪いのはシンだ。間違いない。
 でも、わたしも少し言い過ぎた。
 だいたい、先に恐い目つき(コンプレックス)を刺激したのはわたしのほうだ。
 だから胸のこと(こっちのコンプレックス)を突いてきたことも、少しは情状酌量の余地があるといえるわけで……
「よしっ」
 わたしはボックスを出た。
 誰もない正門広場を抜け、窓口のNPCに近づき、バトルロイヤルに再挑戦した。
 広いサッカー場のような芝生の上に転移する。
 出現位置はランダムに決まる。今回は北側中央寄りのところに出現した。
 後ろからざわめきが聞こえる。観客席の野次馬たちだ。
 わたしたちが喧嘩を始めて間もなく、多くのプレイヤーが競うように乱入してきた。頭に血が昇っていたわたしとシンは、邪魔なプレイヤーや攻撃してくるプレイヤーを排除しながら戦い続け――シンが2回目のデッドになる頃には、もうわたしたちしかグランドに残っていなかった。
 全員、観客席からの見物に切り替えたのだ。
「うざいかも……」
 とつぶやいてみたが、グランドと観客席の間には不可視の壁がある。無視するしかない。
「……っと」
 シンを探す。いた。グランドの中央で大の字になって寝そべってる。
 わたしは歩き出した。
 銃は抜かない。
 警戒もしない。
 微風が横から吹いた。芝生がザワついた。
「試合放棄?」
 近づいたところで、わたしは両腕をくみながらシンに話し掛けてみた。
 シンは眠るように目を閉じながら、ピクリとも動こうとしなかった。
「なんとか言いなさいよ」
 きっと「なんとか」と言ってくる。
 そう思ったのに。
「悪かった」
 予想外の言葉が聞こえた。
「謝る」
 とも聞こえた。
 わたしは頬に張り付く後れ毛を指でかきあげてから、キツイ口調で言い返した。
「なんについて謝ってんのか、ハッキリ言いなさいよ」
「全部」
 シンは目を開けた。黄金色の竜眼は、不思議なほど澄んだ光を放っていた。
「もう、辞めねぇよ」
「当たり前でしょ」
「だよな」
 シンは再び目を閉じた。
「こんな面白いこと、途中で投げ出すなんて……もったいないよな……」
 風が吹いた。
 芝生がザワめいた。
「……ねぇ」
「んっ?」
「わたしも謝っとく」
 風になびく髪を押さえるふりをしながら、わたしは顔を横に向けた。
「ちょっと……言い過ぎた……かも」
「……かも?」
「そ、そっちだって同じでしょ」
「……だな」
「そうよ」
「あぁ」
「…………」
「…………」
 夏の日差しが心地いい。
 吹き抜ける風も最高だ。
 野次馬の声も、どういうわけか気にならなくなってきた。
 なんとなく、二人だけで隔離されていたころを思い出してしまう。あの頃は、この広い芝生も、あの青い空も、なにもかも、わたしたち二人だけのものだった……
――ドゴッ!
 突如として、後頭部に衝撃が走った。鈍器で強く殴られたような痛みもあった。
 どよめきが聞こえた。
 前のめりになったわたしは、痛みを堪えつつ、脇の下から後ろを覗いてみた。
 遠くに、両手で《スペルガン》を構えている子供外装のプレイヤーがいる。
 両脇にもいた。
 その後ろにもいた。
 全員、魔杖は《スペルガン》だった。服はヒラヒラでロリータチックなピンク色のドレスだった。
 どこかで見たことがある気もしたが、すぐに思い出すことはできなかった。
「くるぞ」
 寝そべったままのシンがポツリとつぶやいた。
「手伝いなさいよ!」
 わたしは自分から前に転がった。
 間近を、銃弾が飛び抜けた。
 わたしは受け身をとりつつクルッと向き直った。見たところ、左右のふたりは《スペルガン》を持っているだけで構えてもいない。構えているのは中央のひとりだけだ。
 片膝をついた姿勢で上半身を捻り、右腰の《スペルガン》をクィックドロー。
 問答無用で中央のひとりを撃つ。
 いちいち狙いは定めない。
 当たる時は当たる。外れる時は外れる。でも、不思議とわたしは外さない。それだけのことだ。
 連射しながら、
「コール」
 とつぶやき、思考操作で別の《スペルガン》カードを呼び出す。
 左手でぐしゃっと握りつぶした。
「オープン」
 左手の中で《スペルガン》が具現化する。
 その頃には右手の《スペルガン》が弾切れになるが、これをホルスターに戻しながら、前方につきだした左の《スペルガン》で射撃を続ける。さらにカートリッジカードを呼び出し、右手で握りつぶしながら。
「オープン」
 《スペルガン》が弾切れを起こすが、間髪入れずに入れ替える。
 その頃にはホルスターに差し込んだ《スペルガン》が、同じガンベルトのカードホルダーに差し込んであるカートリッジカードを消費して、自動装填を終えていた。
 右手で《スペルガン》を抜く。
 二丁の《スペルガン》で同時に撃つ。
 両方空になる頃には、中央の子供外装が青白い光の柱に包まれ、消え去った。
 他の子供外装があわてて自分の左肩をダブルタップ。展開したウィンドウを叩き、次々とグランドから消えていった。
 風が吹き抜ける。
 不意に観客席から、盛大な歓声が轟いてきた。
「お見事」
 振り返ると、すでに立ち上がっていたシンが、左手を腰にあて、苦笑まじりに子供外装たちがいた場所を眺めていた。
「あんたねぇ……少しは手伝いなさいよ」
 右の《スペルガン》をホルスターに戻し、左の《スペルガン》を思考操作でウィンドウに収納。収納は楽だからコマンドをつぶやく必要が無い。でも、出すのはまだまだ不得意だ。今度、シンにコツを教わらないと……
「おい」とシン。
「なに?」
「なんでこの距離で当たる」
「へっ?」
「狙えば当たる。それはわかる。でも……連射だと無理だろ。普通」
「初弾以外、少し下を狙うだけ……じゃないの?」
 シンはガリガリと頭をかきながら、「うーん」とうなりだした。
「……はぁ」
 やっぱりこいつ、ゲームのことしか頭に無いみたい。
 なんだかなぁ。
「そうだ」
 わたしはシンに向き直った。
「こういうことはハッキリさせておくのがわたしの流儀なわけ」
「んっ?」
「だから、挑戦状のことと、あんたのことと、喧嘩のこと」
「……で?」
「挑戦状は無視。あんたはやめない。喧嘩は手打ち。文句ある?」
 シンはジッとわたしを見下ろし、なぜか空を見上げ、再びわたしに視線を戻した。
「拒否していいか?」
「ほぉ……」
 わたしは目を細めながら《スペルガン》に手をかけた。
「いや、だからな」
 シンは困ったとばかりに、ガリガリと頭をかいた。
「喧嘩のことだ、喧嘩のこと。こっちは7回も殺されてんだぞ。俺としては納得がいかんわけだ」
 わたしは――魂が抜けるほどの盛大な溜め息をついた。
「あんたねぇ……」
「んっ?」
「少しは人の気持ちってもんを考えなさいよ!」
 わたしは超至近距離から《スペルガン》を全弾、シンの顔に叩き込んでやった。



━━━━━━━━◆━━━━━━━━



 例の子供外装こそが、挑戦状を書き込んだJUNEというプレイヤーだったらしい。
〈だったら不味いことしたな……〉
「なんで?」
〈いや……俺たちが喧嘩初めてすぐ、大勢が乱入してきたろ? その時に何度か、あれに似た子供のテスター、殴り殺した記憶がうっすらと〉
「なるほどね。だからアンチに変わったんだ」
 そうなのだ。
 その日の夜、ネットを覗いてみると、JUNEという人は、シンのことを“乱暴で、強さを鼻に掛けている最低の人間”だとして、悪し様に罵っていたのだ。
 かわいさ余って憎さ百倍、ということらしい。
 同様に、あのバトルロイヤルを境にして、ネットではSL(シンとわたし)のアンチが暴れるようになった。でも、アンチの人たちが暴れれば暴れるほど、わたしたちを擁護する人たちも増えていった。バトルロイヤルでわたしたちに殺されたプレイヤーの中にも、純粋にわたしたちの腕前を褒める人さえいたのだ。まさに十人十色。人間いろいろ。当たり前の話だが、そのことを痛感される展開だった。
 気になるのは――これからのことだ。
 間もなく新しいフィールドが追加される。試練場みたいに1日でクリアできるフィールドではなく、攻略まで何日もかかる広大なフィールドだ。当然、わたしたちも挑戦するつもりだが、ネットの現状を考えると、ちょっとだけ不安を覚えずにいられない。
 それでも。
「なるようになるんじゃない?」
〈……だな〉
 というのが、わたしたちの結論だった。
 何事もそうなのだ。
 悩んでいても仕方がない。重要なのは、わたしたちが何をしたいのか――それだけだ。
「鈴音ぇ、ご飯よぉ」
 階下からママの声が響いてきた。
「はーい」
 わたしはドアに向かって、大きな声で答えた。
〈へぇ……〉とシン。
「んっ?」とわたし。
〈いや……スズネっていうんだ。おまえ〉
「あれ? 言ってなかった?」
〈ネットで個人情報を……とか言ってたの、誰だ?〉
「鈴の音色で鈴音。鮎川鈴音。あんたは?」
〈……クガシンイチ。久しいに、正月の賀正の賀、慎重の慎に数字の一で慎一〉
「久賀慎一か……だからシン?」
〈そっちは鈴だからリンだろ〉
「さぁ?」
 と答えると、シンは苦笑した。
 わたしは笑顔で右拳を画面に押しつけた。
「じゃあね、相棒。定時に」
〈OK、相棒〉
 シンも、画面に拳を押しつけてきた。
 わたしはそのまま、エスケープキーを押した。通話が終わる。一瞬だけ暗転した画面は、すぐにデスクトップ画面に切り替わった。とはいっても、画面の右半分は、今日になって導入したばかりの匿名掲示板用専用ソフトで埋まっている。
 そこには――


648 名前:LIN ◆KM48rimMsQ 投稿日:X0/06/27 14:55:10 ID:********

みなさん、初めまして。SLのLのほうです。

このたびは私たちのことで何かと騒がせてしまい、申し訳ありません。
いろいろとお声をかけていただけるのは嬉しいのですが、
私たちは>>569さんのご指摘の通り、
POをMMOとしてではなく、PVのゲームとして遊んでいます。
他の方々との交流を控えているのは、そのためです。
当面は相棒と二人だけで遊ぶつもりですので、
できればそっとしただけると助かります。

荒れる原因にもなりますので、私からの書き込みは今回限りにしたいと思います。
重ね重ね、お騒がせしましたこと、この場をかり、お詫び申し上げます。

LIN

追伸

こら、相棒。書き込むなら書き込むで、もう少し言葉を選べ!


ノシ
651 名前:SHIN ◆O4TEsRfEf/ 投稿日:X0/06/27 14:58:32 ID:********

再び前言撤回。
>>648は本物。これまで雑な書き込みで気分悪くさせたとしたら正直すまんかった。
お詫びに「戦いの達人」のボーナスカードの情報を投下。
========================
ガン・オブ・ブルードラゴン:拳銃っぽいカード
スケール・オブ・ブルードラゴン:両腕と両脚が竜鱗で覆われる拳闘系魔杖
ソード・オブ・ブルードラゴン:日本刀っぽいカード
グレイブ・オブ・ブルードラゴン:薙刀っぽいカード
ロッド・オブ・ブルードラゴン:竜頭の杖っぽいカード

カードはどれか一枚しか選べない。
俺も相棒をスケールを選んだので他のカードの詳細は不明。
スケールの登録技はパンチ系とキック系っぽいが詳細は不明。現在解析中。
========================
>>魔王氏、妖精氏、まとめ子象氏
お世話になってます。今回の情報を年貢としてお納めください。

>>649
紋章のことは俺たちもわけわかめ。本筋関連だと思われ




 更新すると、キターというアスキーアートと猫のキャラクターが祈っているアスキーアートが百近く続いていた。もの凄いパワーだなぁ――と思いながら、とりあえずわたしはパソコンから離れることにした。
 まずは腹ごしらえだ。
「お腹空いたぁ。今日、なにぃ?」





LOG.02 " BBS "

End






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