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[50]


「――郎! 浩太郎(こうたろう)! 起きなさいっていってるでしょ!」
 ついに幸恵(ゆきえ)は実力行使にうって出た。フードを押し上げ、問答無用で弟の躰を揺さぶったのだ。
「んんっ――やめろよ…………」
 浩太郎は顔をしかめながら目を覚ました。
「御飯だっていってるじゃない! いつまで寝てんのよ!」
 幸恵はボフッと浩太郎の躰をシートに押しつけた。
「ほら、さっさと降りてきなさい! 五分よ、五分! あと四分五十九秒! 五十八! 五十七! 五十六!」
 姉はカウントしながら部屋を出て行った。
「ちぇっ……」
 舌打ちをしながら、浩太郎はシートを降り、その場で大きく背伸びをした。
「んんん……っと」
 まだ頭がボンヤリとしている。それでも軽く躰を動かすと意識もハッキリしてきた。
 部屋の蛍光灯はつけられていた。カーテンも閉まっている。姉が閉めてくれたのだろう。外はもう暗くなっているらしい。学習机に置いてある目覚まし時計は、七時五分を指し示していた。
(……あれ?)
 何かが変だ。
 浩太郎は違和感の理由を考え――PVシートを目にして、すぐに合点した。
(制限時間、一時間も過ぎてるし)
 PVのログイン時間は最大三時間だ。それを越えると、強制的にログアウトされてしまう。念のため浩太郎はパソコンラックに向かい、スタンバイ状態のデスクトップ・パソコンを立ち上げてみた。『アクセスチェッカー』というソフトによると、ログインしたのが十五時三分、ログアウトは十八時十八分となっていた。
(……んっ?)
 一五分ほどオーバーしている。
「――あっ」
 ようやく浩太郎は思い出した。
 MMO版が間違って適用されていたのだ。正直、あれには驚かされた。
(ネットに何か……)
 彼はバーグラ――ミラーグラスにしか見えない眼鏡状の映像出力デバイス――を取り上げ、キーボード・デスクを引き出した。キーボードそのものは置かれていないが、FV環境にすると、そこにヴァーチャル・キーボードが表示されるよう設定してある。彼はそれを使いこなそうと――自らの左肩を二度タップした。
(……んっ?)
 何も起こらない。
(……あぁ、そうか)
 今の動作はPVでのモーションコマンドだ。たった三時間半のうちに、染みついてしまったらしい。我ながら影響されやすいというか、何というか。
(えっと……)
 ヴァーチャルキーボードとFV-OSのモーションコマンドでネットの海に泳ぎだしてみる。
(どこかの掲示板に……)
 匿名性掲示板を探してみると、関連スレッドが見つかった。
 スレッドタイトルは「【牛は】Wizard Labyrinth 78【えろい】」。開く前は発言数が四百ぐらいだったが、専用ブラウザで読み込んでみると、一気に千まで埋まってしまった。ザッと眺めると、やはり先ほどの騒動のことで祭りが発生したらしい。
 次のスレッドタイトルは「【墓事件】Wizard Labyrinth 79【乱交可】」。
(おいおい……)
 あまりにもストレートな名前だ。
(まぁ、そういう場所だからな……)
 そんなことを考えながら、浩太郎はザッとスレッドに目と通していった。
 気になったのはログアウトに関する書き込みだった。

239 名前:まとめ小僧◆w/JOB33333 投稿日:X0/04/03 19:07 ID:********
その7
 ・ゴブリン大暴走でVRNも事態に気づいた(未確定)
 ・片っ端から強制落とし&睡眠誘導(ほぼ確定)
 ・18:53にバベル陥落
 ・18:59にOHPで緊急メンテの告知

オマケ
 ・バージョンB0は「ぼ」じゃねぇ、Beta-Zeroじゃい!
 ・でも略称は「墓」が有力。次点は「バーボ」「バーベ」「馬部」。
 ・バベルは金髪のショタ小僧(受)らしい(w
 ・謎キャラ情報は雑談室が詳しい

274 名前:名も無き冒険者 投稿日:X0/04/03 19:08 ID:********
>>18
バチッとやられると驚くでそ? だからソーッと眠らせながら落とす。
すぐに目覚めるけどナー
それともアロハって、けっこう維持されたっけ?

詳しくはマニュアル見てみそ。公式は重いんで、ミラーがお薦め。

・公式
 ttp://vrn.com/pv/report/20W9/********.pdf
・ミラー
 ttp://www.ekisya.jp/pv/wl/********.pdf
 ttp://f999.aaacafe.ne.jp/~wigo/wl/data/********.pdf
 ttp://www.geoland.co.jp/gamecity-rpg/3366/labyrinth/********.pdf
 ttp://www.masaka.jp/pvr/********.pdf

581 名前:名も無き冒険者 投稿日:X0/04/03 19:09 ID:********
>>274
>それともアロハって、けっこう維持されたっけ?

個人差ならあるかもナー そのまま熟睡する香具師もいるでそ
でも普通ならすぐ目を覚ます
恐い香具師は病院で検査して味噌
vrんの指定病院なら1Kで簡単な脳波検査してくれる
明日になれば無料で検査してくれるかもしれないけどナー

>>293
漏れも仕事で潜れてなかったよ (´・ω・`)ショボーン


 どうやら「強制落とし」が「強制ログアウト」、「アロハ」が「アンデルフィア=ローカル場」の略語らしい。さらに読んでいくと、ログアウト前後の記憶が曖昧なのも、副次的に、仮想現実体験が夢と同列に処理されてしまうせいだと言及されていた。
(なるほどね……)
 浩太郎は不思議と得心した。
 もっとも、彼はまだ、そのことを意識していなかった。





一切の記憶が残っていないことを





Deadly Labyrinth : The Automatic Heart





Epilogue " Deadly Case "






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