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Deadly Labyrinth ] > [ #06 ]
[06]
「なっ――」「えっ――」
二人は硬直した。
爆音が轟き、剣閃がきらめく。プレイヤーの首が飛び、腕が跳び、脚が千切れ、白い光の粒子をまき散らしながら次から次と、幾多の外装が“消滅(ロスト)”していく……
「――!?」
不意にクロウは視界の片隅に照準を見いだした。その先には、巨大な鉄槌(てっつい)を振り上げる西洋騎士の姿があった。
「お、おい!」
兜を被っているせいで西洋騎士の表情はわからない。だがクロウは騎士の動きから問答無用の敵意を感じた。
反射的に攻撃阻止限界点照準に左のバックラーを重ね、パリングする。
――ガンッ!
「くっ――!」
重い一撃が上から叩きつけられた。骨がきしむような衝撃と痛みがある。
「なにすんだ!」
「うっせぇぇぇぇぇ!」
騎士は叫び返しつつ、再びバトルハンマーを振り上げた。
「――ったく!」
チラッと騎士の頭上を見上げたクロウは顔をしかめた。
浮かび上がる立体文字は血のように赤い。
PK(プレイヤー殺害者)だ。
(早速祭りか?)
右手をブロードソードの柄に回し、騎士の攻撃のタイミングを計る。
――ピッ
集中すると、自分がロックオンされると同時に小さなSEが耳元で鳴り響いた。
同時にクロウは左前方に一歩踏み出しつつ身を屈める。
騎士のバトルハンマーはクロウから見て左上から右下に向けて振り下ろされ、《システム》が定める理想軌道そのままに石畳をガツンッと叩いた。
(ビンゴ!)
クロウはある一点を見据えながら剣を抜き、身をねじった。
無理な体勢からの攻撃だったが、途中から《システム》の的確なアシストが入る。
わずかに背をのけぞらせ、
左手を石畳に延ばし、
体を腕一本で支え、
腰を捻り、
右手のブロードソードを真上に向け――
――ズシャッ!
刃は寸分違わず、クロウが凝視した一点――騎士の右脇下へと叩き込まれた。
――CRITICAL HIT
クロウの耳元にシステムメッセージが響く。
騎士の右腕が切断された。
鮮血は飛び散らない。攻撃を受けたクリーチャーがそうなるように、切断面は淡い赤光で覆われながら、わずかに赤い光の粒子をまき散らすだけだった。ただ――
「うわぁぁぁぁぁ!」
騎士はバトルハンマーを手放し、失った右肩を押さえつつ、地面に転がった。
(えっ?)
このゲームに“痛み”があることはわかっているが、泣きわめくほどの激痛が――
「なにすんのよ!」
背後から響いたリーナの声が、走りかけたクロウの思考にインターセプトをかけた。
振り返るとリーナは横方向に転がりこんでいる。
寸前まで彼女がいた場所には、チェインメイルを身につけた男性プレイヤーの槍が突き刺さっていた。
「ビギナー相手に……!」
クロウは駆けだした。
「ひっ――!」
槍を持つプレイヤーは目をカッと見開き、クロウに槍を突き刺そうとした。
だが、腰が退けている。
躰に無理な力を入れているのだろう、《システム》のアシストが有効に活用されていない。
それでもクロウの左脇腹がロックオンされた。
(これなら!)
クロウは右前方に大きく踏み出すと、勢いもそのままに、右足を軸に、グイッと腰を捻って躰を半転させた。
槍が脇腹ギリギリを通過する。
クロウはさらに腰を捻り、槍男の首を凝視しながらブロードソードを振り抜いた。
――ズシュッ!
――CRITICAL HIT
槍男の頭がポーンと宙を舞い、石畳に落下すると共に残された肉体ごと消滅した。
「リィ、大丈夫か!?」
「リィって誰よ、リィって!」
リーナはふくれながら立ち上がると素早く左肩を二度タップした。
「いい!? 明日の朝六時だかんね!」
「了解!」
クロウは苦笑しつつも、自身の左肩を二度タップし、ウィンドウを展開させた。
右側に展開するデータウィンドウの左下にはシステムウィンドウに切り替えるオブジェが浮かんでいる。それをノックすると全てのウィンドウが消え、真正面にシステムウィンドウが出現。ログアウト・オブジェはその中の――
「あれ?」「んっ?」
無い。
「ちょ、ちょっとクゥ! ログアウトってシステムウィンドウだよね!?」
「……クゥってなんだよ、クゥって」
「どうでもいいでしょ! それよりログアウトって――」
――ピッ
クロウはロックオンSEを聞いた。
ハッとなって視線を走らせると、右脇腹に照準が浮かんでいる。視線をさらに走らせると、延長線上に長いローブを身につけた大柄な男性プレイヤーの姿があった。
目を血走らせながら、両手で握りしめた長い杖をこちらに向けている。
彼は叫んだ。
「コールマジック! フレイムアロー!」
ボッと杖の前方に火球が生まれた。
「ゴゥ!」
火球は一瞬にして内側に縮退。赤い光の矢と化すし――クロウに向け飛びだしていった。
「――あっ!」
ようやく攻撃に気づいたリーナが声をあげる。
(避けると――!)
真横にいるリーナに当たる――クロウは半ば無意識的に、炎の矢に向かって踏み出していた。
「破っ!」
ブロードソードをまっすぐ振り下ろす。
剣閃一撃。
《システム》のアシストを受けたクロウの刃は、寸分違わず、飛来した炎の矢を両断した。
――ボフッ!
爆煙が広がり、クロウがその中に飲み込まれる。
「クゥ!?」
「ゴホッゴホッ……こ、こんなもんまで再現すんじゃねーよ!」
拡散していった爆煙の中から、喉を押さえ、咳き込み続けるクロウが姿を現した。
頭上のHPバーはそれほど減っていない。
着弾前に打ち落とせば、威力をかなり殺せるという仕様だったのだ。
「あっ」
リーナはクロウの頭上を見上げながら声をあげた。
「オホッコホッ……?」
咳き込みながら、クロウも自分の頭上を見上げてみた。
“KLAW”という立体文字が赤くなっている。
(――そういえば槍のやつ、白かったっけ)
プレイヤーを殺せばPKになる。殺す前ならPKにならない。それだけのことだ。
「こっちだ!」
誰かが声を響かせた。釣られてクロウとリーナが視線を向ける。数名のプレイヤーが第一階層に通じるストーンサークルに向かって駆けだしていた。
「…………」「…………」
二人は顔を見合わせ、うなずきあうと全速力で走り始めた。
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