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Deadly Labyrinth : The Automatic Heart

[05]


 なんとなくクロウとリーナは、その後も行動を共にしていた。
「キャッ!」
「武器でもパリィできるって言ったろ!」
「わかってるわよ!」
 相手はコボルト八体。ザコとはいえ、数が数なだけに決して楽な戦いとは言えない。
 もちろん、脅威というほどでも無いが。
「ふぅ……」
 敵を全滅させたクロウは、汗もかいていないのに右腕で額をぬぐった。
「それ、もしかして癖?」
 リーナは血も付いていないのに血振りをしてから、時代劇の俳優さながらの動作でブロードソードを左腰の鞘に収めた。
「んっ? なにが?」
「だから――これ」と、汗をぬぐう仕草を真似る。
「あぁ……まぁ、そんな感じ」
 クロウはブロードソードを持ったままの右手でガリガリと頭をかいた。
「それもね」とリーナが笑う。
 クロウも苦笑し、剣を鞘に収めた。
「んじゃ――最初はグー!」
「「ジャンケンポン! ポン! ポン! ポン!」」
 半ば恒例になったドロップアイテム獲得者決定ジャンケンが始まる。
 今回の勝者はリーナだった。
「よしっ!」
「ボムはリストの最初」
「わかってるって」
 リーナは手際よくドロップアイテムを拾い、リストを手動でソートして(並び替えて)いった。その間、クロウは投げ捨てておいた松明(たいまつ)を拾い、これを左手に持ちつつ、右手でウィンドウを展開。右のデータウィンドウと正面のキャラクターウィンドウを交換し、ここまでの地図を眺めてみることにした。
 データウィンドウのみを表示させた状態でプレイヤー同士が接触すると、〈地図情報を交換しますか?〉という確認ウィンドウが表示される。双方が“YES”を選択すると、地図情報の不足分を互いの情報から補う――そのことに二人が気づいたのは、ゴブリン三体を撃退したあと、アレコレと軽口を言い合いつつ、互いの地図を見る方法は無いかと試している最中のことだ。
 ちなみにアイテムウィンドウのみを表示させた状態ならアイテムトレードが、キャラクターウィンドウのみの場合はパーティ編成が可能になる。以上のことは、マニュアルにも記載されていないMMO版の仕様らしい。
(編集が間に合わなかったんだろうな……)
 クロウは現状を“MMO版のβテストバージョンにアップデートされただけ”だと考えている。冷静に考えるとそれだけとは思えない点も多々あるが、彼自身が懸念している“最悪の事態”はあまりにも荒唐無稽だったため、最初から無視することにしていた。
 だいたい、一昔前のフィクションと同じような出来事が実際に起こるわけが……
「OK。向こうだよね?」
 アイテムのソートを終えたリーナが向かって前方を指さした。
「ちょい待ち」
 クロウは改めて地図を眺めた。
 地図は右上から左上を経由し、左下にいたる部分がアクティブ表示になっている。左下から左上にかけてはリーナが踏破した地域の情報だ。これによると南西は罠地帯、西は回転床地帯であるらしい。つまり、第一階層全体が三×三の九区画に分かれ、それぞれの区画が何らかの特徴を持っているらしいのだ。
 また、第一階層そのものが迷宮全体のチュートリアルを兼ねており、周囲八区画が“ゲームに登場する仕掛け”全てを網羅している可能性も考えられる。そうなればストーンサークルは中心部にあると見るべきだ――とクロウは推察していた。
「違う?」リーナも地図を表示し、方角を確かめた。「やっぱりアッチでいいんじゃない?」
「だな」
 クロウは左肩を二度タップするモーションコマンドで全てのウィンドウを一斉に閉ざした。
「まっ、違ったら違ったで戻ればいいし」
「じゃ、Let’s go」
「おっ、ナイスアクセント」
「当然。帰国子女だし」
「マジ?」
「ウソ」
「おーい」
 二人が第一階層の中心部――四方に道が延びる三×三の九ブロックの空間にたどり着いたのは、それから数分後のことだった。
「BINGO」「だな」
 二人の眼差しは、空間のさらに中心、灰色の自然石で作り上げられたストーンサークルに向けられていた。
 直径だけでも七、八メートル――約一ブロック分――はある大きなストーンサークルだ。
 マニュアルの記述によれば“転移門”と呼ばれる地形オブジェらしい。
「あれかな、中に入ればクリアーってこと?」
「多分」
 そのままストーンサークルの中に踏み込んでみると、二人の眼前に
〈コロシアムに転移しますか?〉
 という確認ウィンドウが出現した。
「長かったな……」
 クロウはガリガリと頭をかきながら苦笑を漏らした。
「あっ――」
 リーナはウィンドウ右下を一瞥してからクロウの方に顔を向けた。
「あたし、そろそろ三時間だけど、そっちは?」
「二時間五三分」
「じゃあ、コロシアムに戻ったところで今日は終わり?」
「だな」
 PVシートには“使用時間が三時間になると強制ログアウト処理に入る”、“一度ログアウトすると九時間のインターバルをおかなければログインできない”という安全機構が組み込まれている。『WIZARD LABYRINTH』では特定のイベント中を除き、タイムリミットが訪れるとマイルームに自動的に転送され、そこで強制ログアウト処理に入る――というのが、不完全なマニュアルに記載されている内容だった。
「あのさ……」とリーナが言いにくそうに告げてくる。「明日……暇?」
 クロウは両眉をあげ、苦笑した。
「デートのお誘い?」
「あんたねぇ……」
「イッツ・ア・ジョーク」
「……で、どうなのよ」
「朝なら大丈夫……かな? 六時頃にココっていうのは?」
「OK。じゃ、朝の六時ね」
 リーナは嬉しそうにニコッと微笑んでから確認ウィンドウの“YES”をノックした。
 瞬間、ブォンという効果音と共に、視界の全てが真っ白に染まった。かと思うと、クロウはコロシアムの中央に立っていた。転移させられたらしい。
「――あれ?」
 自分はなにも操作していないのに――
「あっ――」
 振り返ると、リーナがいた。
 しばらくお互いに見つめ合うが、クロウはガリガリと頭をかきながら再び彼女に背を向け、リーナもポリポリと右の人差し指で頬をかいた。転移はプレイヤー単位だと思っていたが、どうやらパーティ単位だったらしい。なんともバツの悪い再会(?)の瞬間だったが――
「んっ?」「えっ?」
 クロウとリーナはほぼ同時に顔をしかめながら周囲を見回した。
 コロシアムには二人しかいない。グランド部分は元より、すり鉢状の観客席にも人影は欠片も見あたらない。だが、どこからともなく“声”が響いてきた。
「ねぇ、この声……」
「……歓声?」
 最初は地鳴りにも似た重低音だけが響いていた。だが、次第に音量が強まり、高音域も聞き取れるようになってきている。
 歓声といえば歓声かもしれないが、怒声や絶叫に近い刺々しく鋭利な響きにも……
〈おめでとうございます〉
 突如として二人の目の前にナビゲーターが出現した。
〈クエスト“First Misson”をクリアーしました。クリアーボーナスとして経験値とボーナスアイテムが与えられます。なお、これをもってチュートリアルは終了、メインワールドへの接続が開始されます〉
 直後。
――バリーン!
 ナビゲーターごと、世界が砕けた。
 代わって出現したのは先ほどと全く同じコロシアムの光景と――
「だぁぁぁ!」「コールマジック!」「邪魔すんな!」「死ねぇぇぇ!」
 コロシアム全域で展開する数百、数千というプレイヤー同士の殺し合いの光景だった。

To Be Contined

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