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ONLINE : The Automatic Heart

[04-18]


「……おーい、リ〜ンっ!」
 俺はロックゴーレムの片腕を《バーストガン》2丁の連射で砕いている相棒に、大声で呼びかけてみた。
「俺たち、これから海賊ってことで、いいよな〜ぁ!?」
「忙しいからあとっ!」
 相棒は《バーストガン》2丁を投げ収めると同時に、ホルスターの《バーストガン》2丁を抜き放っていた。見ていると、挟撃を狙ってきたもう1体のロックゴーレムの右膝をうち砕いている……って、なんだ、あのピンポイント攻撃。なにをどうすれば、あれだけ動き回りながら2丁拳銃であの命中精度を……
「あいつは海賊っていうよりも魔女だな──」
──ドフッ!
 額を撃ち抜かれた。痛い。気分はでこぴんだ。いや、マジでそれに近い。
「誰が魔女だって!?」
「天使、天使。エンジェルガンナー様だ、おまえは」
「あとでころーすっ!」
「やってみぃ」
 俺たちは視線をあわせた瞬間、同時に右の親指で自分の首を切り、地面を指し示した。
 さぁ、これで次のログインでのガチ喧嘩、確定だ。
 現在の勝敗は43戦8勝15敗20分け。早く勝敗で並びたいところだが……
「……ふふ……ふふふ……ふはははははははははははははは!」
 鳥の巣頭が急に笑い出した。
「あはははは! いや、ごめん! ははははは、で、でも……ははは、その通りだ、その通りだよ、シンくん! 君たちはそれでいい! あはははは! ははははははは!!」
「……笑うな」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
 空気を読まない雄叫びが背後から響いてきた。部長様だ。
 肩越しに振り返ると、杵を振り上げ、こっちに駆け寄ろうとしている。
「死ねぇえええええええ!!」
 杵の先端からワイヤーフレームのボールが広がっていく。
 俺を取り囲む蒼海の連中があわてて逃げ出そうとしている。
 一方、俺自身は、
「……うし、いくか」
 呆れつつ逆鱗を立てた。
──ドンッ!
 爆音が轟く。部長様の攻撃ではない。一気に肉薄した俺が、強く踏み込みながら拳を腹に叩き込んだのだ。10メートル近い距離を一瞬でゼロにされた部長様は、自分が何をされたのかわからないまま吹き飛んでいった。
──ズンッ!
 と思ったら、ロックゴーレムが1体、俺のほうに近づいてきた。
 蒼海の連中はパニック状態だ。
「シン、ごめん! 1匹、そっちいった!!」
「言われなくてもわかる!!」
 言い返している頃にはもう、ロックゴーレムが《大きく振りかぶったうえでの拳攻撃(テレフォンパンチ)》で俺を潰そうとしてきている。
 だが、遅すぎる。
 俺は拳が近づきだしたところで、手近な巨石を踏み台に、大きく飛び跳ねた。
 そのままゴーレムの腕上に着地。
「よっ」
 さらなる跳躍で、俺はゴーレムの頭上にストンと着地した。
 そのまま右の手首を左手でつかみ、
「……じゃ、逝けっ」
 広げた右の手のひらを頭部に押しつけた。
 《エナジーショット》の連続起動。
──GuOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
 ロックゴーレムが初めて咆哮を轟かせた。
 俺は自分の頭上を見上げることで、ロックゴーレムのオーバーヘッドステータスを確認してみた。HPバーは急激に減っている。やはり物理攻撃には強いが、呪文攻撃には弱いタイプのモンスターだったらしい。裏技使いにとっては鴨葱(かもねぎ)そのものだ。
「よしっ!」
 相棒が小さくガッツポーズをしている。
 見るともう1体のロックゴーレムが崩れ始めている。HPを削りきったのだ。全身が灰色になり、少しずつ消えていく演出はイベントのラスボスとうり二つといえる。まぁ、クランアイテムってやつは、それぐらいの代物なのだろう。本来は。
「よしっ……と」
 1秒ほど遅れて、こっちのロックゴーレムもHPがゼロになった。
 崩れる前に飛び降り、とりあえずリンのもとへと向かう。
「別にいいけど?」
 両手の埃をパンパンと叩くことで払っている相棒は、不意にそう告げてきた。
「んっ?」
「海賊、やるんでしょ?」
「ああ、それ。まあ、おいおい」
 俺がそう答えると。
「であぁあああああああああああああああああああああああ!!」
「じねぇえええええええええええええええええええええええ!!」
 いつの間に近づいてきていたのいか、部長様と電算2号が杵を振り上げながら奇声を張り上げていた。
 リンの頬がピクッと動く。
「……げき、りんっ」
 某特撮ヒーローを連想せずにはいられないつぶやきをひとつ。相棒の四肢を覆う鱗が逆立ち、青い燐光を放ち始めた。これぞ正真正銘、本物のゲキリン……なんつって。
「ほどほどにな」
 俺は無意味を承知で軽くなだめつつ、リンのもとから離れた。
 ところで。
 暴れ馬である《ブラストバルカン》は、撃ってる先から銃口がブレていく。そのため、よほどの怪力の持ち主か、()()()()()でもなければ、全弾を一ヶ所に集めることなどできない。だから俺には無理なわけだが……
 ここに逆鱗を立てたリンがいる。
 つまり、そういうことだ。
「いい加減に……しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 相棒はバルカンの全弾をピンポイントで望むところに当てていった。
 悲鳴がふたつ。
(自業自得……か?)
 と思いつつ、改めて蒼海のほうを眺めてみた。
 誰もいない。
「あの……」
 巨石の陰に隠れていた新島が出てきた。
「みなさん、リタイアを……」
「ああ、リタイアか。じゃあ……おまえもそうしとけ」
「その……シン、くんは……」
「いいから、さっさとリタイアしろ。あと、もう俺に関わるな。いいな」
「う、うん……」
 なにやらもじもじしていたが、新島はウィンドウを開き、リタイアしていった。
 これで残るは俺とリンと部長様と電算2号だ。
「こ、降参します! 降参! リタイア!!」
「ま゛け゛ま゛し゛た゛ぁああああああああああああああああああああああ!!」
 訂正。俺とリンだけだ。
「なによ。もう終わり?」
「残りは俺とおまえだけらしいぞ」
「そっ。じゃあ……」
 相棒はバルカンに専用弾のカードを装填しつつ、ニヤッと笑った。
「誰にも邪魔されず、ひと勝負、できるってわけ?」
「そうだな」
 俺もニヤッと笑いつつ、《ハルバード》を具現化させた。
「じゃ……逝けっ!」
「どっちが!」
 俺の《ハルバード》が向こうの脳天めがけて振り下ろされると同時に、リンの《ブラストバルカン》が鈍器としてこっちの脇腹に襲いかかってくる。
「だぁあああああ!」
「てぇあああああ!」
 お互い、マジだ。多少の痛みなんていつものこと。かくして44回目のガチバトルは、エスカレートの一途をたどっていった。


━━━━━━━━◆━━━━━━━━


 《ライトアロー3》を3射しつつ、向こうの逃げていく方向にフルオートで《アサルトライフル》の弾丸をばらまいていく。だが向こうは《トライデント》で《ブルーシールド》を連続起動、光矢も弾幕も受けきりながら巨石の陰へと飛び込んだ。
 かと思うとすぐ飛び出してくる。
 右手には《バーストガン》、左手には《グレネードランチャー》。
 俺は逆鱗を立たせ、横に跳んだ。
 撃ち出されるグレネード弾。それをあの女は空中にあるちに《バーストガン》で撃ち抜いた。爆発……いや、白煙が一気に広がる。《スモークグレネード》。煙幕弾だ。
「ちっ」
 瞬時に3本の《トライデント》を具現化、自分を三角に囲むように突き立てる。
「……はっ」
 後ろにのばした両腕を一気に胸の前まで持っていき、ぱん、と眼前に突き立つ《トライデント》を手のひらで挟み込む。触れた瞬間の思考操作に従い、3本の《トライデント》は俺が感覚的に設定した周辺に向けて《アイスボール》を撃ち出した。
 裏技その2──並列起動だ。
 これは今のところ相棒にもできない。俺だけの裏技だが、実を言えば成功率があまり良くなかったりする。何度も何度もトライ&エラーを繰り返した結果として、ようやく最近、3本なら安定的に使えるようになってきたが、実戦に組み込むところまでは、まだ至っていないと自分では考えている。
 しかし、今は煙幕で意表をつかれた。ここは逆に向こうを驚かせるために使うべき時だ。
 事実、凍れる蒼光の半球が俺の周囲で3つ、爆発していった中にリンは飛び込んでいったようだ。すさまじいのは、そのまま《バーストガン》で俺の右脚を打ち抜いてきたこと。
「ぬおっ!?」
 あえて打ち抜かれた衝撃に逆らわず、半回転しながら倒れていく。
 その間に《エナジーショット》の連続起動をイメージ。超接近連射を仕掛けてくるであろうリンに超々接近連撃でやり返す光景をイメージしておいた。こうした次の光景を思い描いておくことが、裏技をうまく起動させるための一番のコツなのだ。
「──!!」
 爆球が消え去るより先に、そこに飛び込んだ勢いのままリンが飛び出てきた。
 両手で《バーストガン》を1丁だけ、しっかりと握っている。
 しかも、逆鱗を立たせていた。
 まずい。2丁拳銃を想定していたが、1丁をしっかり握られていると、腕を蹴ったところで銃口をそらせない。おまけにこっちは先に逆鱗を立たせている。残り時間は20秒を切った。無論、マナ装填の隙を見逃してくれるような相棒じゃない。逆鱗が切れると同時にラッシュを仕掛けてくるはずだ。だったらそれより先に、こっちが!
「はっ!」
 右側に捻りながら後ろに倒れようとしていた俺は、《ライトフィスト》をまとう右拳を地面に突き立て、その反動で一気に体を起こした。そんな俺の胸にリンの《バーストガン》の射撃補助線が伸びてくる。
 勝負だ。
「──!!」
 歯を食いしばり、中腰気味に両足を踏ん張らせながら、両手でリンの頭を挟み込んだ。
「!?」
 リンはギョッとしながらも、銃口を俺の胸に押しつけ、引き金を引きまくった。
 ドドドドドッというものすごい衝撃が胸部を連打してくる。
 猛烈に痛い。
 硬式野球の剛速球を何度も何度も胸で受けているようなものだ。いくらアビリティや装備でバリアの防御力が上がっているといっても、限度というものがある。
 だが俺の両手も、しっかりとリンの頭部を挟み込んだ。
 イメージはできている──《エナジーショット》連続起動、開始。
「んく──っ!!」
 リンの顔も苦痛にゆがむ。頭部をぎっちりと挟み込む俺の両手の力が痛いのだ。弱めてもいいが、そうするとこの女、これ幸いとばかりに離れながら撃ちまくってくるのは間違いない。HPバーの残りからみて、ここで逃がすと回復の暇すらなく撃ち殺されること、間違いない。だったらそれよりも先に向こうを削り殺すしかない。
「うぉおおおおおおおお!」
「ん、くっ……んっ……」
 我慢比べだ。だが、その戦いは無粋なマシンボイスによって突如中断させられた。
──TIME OVER.
 胸部の痛みと衝撃が消える。カチカチとトリガーを引いても弾が出なくなったからだ。
 両手の輝きも消える。アビリティが使えなくなったからだ。
 お互いの青い燐光も消え、鱗も、しゅー、と音でも立てそうな緩やかさで戻っていく。
「はぁ……」
「はぁ……」
 俺たちは同時にため息を漏らし、少し離れあった。
 ウィンドウが展開したのはその直後のことだ。
──WINNER 【SHIN】
「よしっ!」
「うそ!?」
「判定勝ちでも勝ちは勝ち! はぁ……やっと9勝目かよ」
「それでも44戦15勝9敗20分。まだまだわたしのほうが勝ち越してるけど?」
「3連勝中だけどな」
「……ムカつくぅううう!」
「約束だ。《ベルト・オブ・ウィンドミル》、買ってもらうぞ」
「もう……わかったわよ。出せばいいんでしょ、100万」
 などと話し合っていると、視界の粋にカウントダウンが表示された。“REMOVE”となっているところを見ると、グラウンドを出ろということらしい。
「おっ……とりあえず出るぞ」
「りょーかい」
 俺たちはウィンドウに出現していた離脱ボタンを押し、まずボックスへと戻ることにした。そこから出ると──
「……わぉ」
 ものすごい数のユーザーが遠巻きに俺の出てきたボックスのあたりを取り囲んでいた。
「なにこれ」
 遅れて出てきたリンも驚いている。
 囲んでいるユーザーの中には、俺がブッとばした蒼海の面々も混じっていた。部長様と電算2号の姿はない。俺たちを見る態度は、半分が好奇心と好意的なものが混ざったような感じだったが、もう半分は不審げにうさんくさいものでも見ている、という感じだ。
「……なんか、やな感じ」
 相棒がムスッとしながら、そうつぶやいてきた。
 同感だ。
「出るか?」
「じゃ、家についたらこっちから掘る。少し時間、かかるだろうし」
「了解。またあとで」
「うん。またあとで」
 俺たちは拳を軽くぶつけあったうえで、ウィンドウを開き、ログアウトを選んだ。

To Be Contined

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