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[04-17]
「なにか楽しいことになってるみたいだね」
鳥の巣頭だ。
奴だけじゃない。その背後には次々といろんなユーザーが転移してきている。大多数は《青》系のようだが、中には《赤》っぽい機械の体を持っているユーザー、《緑》っぽいケモノ耳をはやしているユーザーなどもいる。
おそらく、この全員が本当の意味での蒼海騎士団のメンバーなのだろう。
「邪魔すんな」
俺は近づいてくる鳥の巣頭に背を向けつつ、バトルロイヤルへの参加申請を行った。
部長様はそれを確認するが早いか、大急ぎで何かを操作していく。
新たなウィンドウが表示される。
バトルロイヤル参加受付終了のお知らせと今回の参加者リストのようだ。少し気になるのは、リストには名前の横にCやBなどのランク表示っぽいものがあることだ。俺とリンの表示はF、部長様がS、鳥の巣頭を含む蒼海騎士団の連中はCかBとなっている。
「……おっ、“SUSANO−OH”? どこだ?」
リストに名前が出ているので探してみたが、電算2号の姿はどこにも無かった。
隠れているらしい。
かと思ったら部長様もどこかに行ってしまった。
2人で一緒に隠れてしまったとか?──まぁ、それも悪い作戦ではない。すでに視界の片隅ではカウントダウンが60から始まっており、0になると同時に大乱闘が起こることは誰もが予想できる状況なのだから……あっ、バトルロイヤルってことは、まさか相棒ともここでやり合うとか?
「なぁ」
「休戦協定でしょ。わかってるわよ」
リンはウィンドウを開き、アイテムを確認しながら言い返してきた。
「それよりバルカンちょうだい」
「……おい」
「念のためよ」
「作戦会議かい?」
鳥の巣頭がアオザイ女と一緒に馴れ馴れしく俺たちの会話に割り込もうとしてくる。
俺はため息をついた。
「なぁ……おまえがここにいる経緯、聞いていいか?」
「アオザイ着てるのがうちの……私立聖アンヌ女学院高等部の生徒会長一派の幹部で茶道部の副部長でもある北条院藍子さん。テスター申請の検査に行った病院でわたしを見かけて、ずっと目をつけられてたってわけ」
「だめじゃない、鈴音さん。それ、個人情報の漏洩よ?」
アオザイ女がクスッと笑った。
「それとも、私が団長に教えたことへの意趣返し?」
図星らしく、相棒はムッとしたまま黙り込んでしまった。
俺もなんとなくムッときた。
それを察したのか、鳥の巣頭が少し大きな声で会話に割り込んできた。
「ところで──!」
「黙れ」
俺は自分のアイテム・ウィンドウを確認、消耗品をクランウィンドウから補充、装填の必要なものは装填をするという作業を続けながら、忌々しげにつぶやいた。
「Xchの、俺の書き込み。知らないのか、てめぇは」
「君の書き込みというと……どれのことだい?」
俺はため息をつき、ウィンドウを閉じた。
カウントダウンは30秒を切ろうかというところ。まだ少し時間がある。
「ったく……おい、新島! いるんだろ! 来い!!」
いることはわかっている。リストのランク表示、俺とリン以外にもう1人、Fランクのユーザーがいたのだ。
名前は“TOMO”。
新島の下の名前は思い出せないが、こういう状況でわざわざバトルロイヤルに参加してくる最低ランクらしいユーザーとなると、どう考えても新島以外に考えられない。だからこそ、振り返りながら怒鳴りつけてみたのだ。
「さっさと出てこい!!」
さらに怒鳴りつけると、案の定、少し離れた巨石の陰から新島が出てきた。蒼海の連中からも離れた場所で、ひとり、居場所もなく困っていたところらしい。
「……来い」
もう呼びかける。やっと新島がこっちに来た。
「時間が無い。端的に答えろ。やつらの持ってた杵、あれはなんだ?」
「あ……その……《ウッドハンマー》っていう呪文系魔杖で、《緑》だと珍しくない魔杖で…………」
「固有アビリティは」
「《ライトアロー》と《ライトボール》と《ライトシールド》……です」
「これから奴がやろうとしていることに、思い当たることは?」
「それは──」
「氏族装備だよ」
鳥の巣頭が割り込んでくる。
「彼らはまだ氏族を結成していない。でも、ここのバトルロイヤルはクランアイテムの使用が許されている。だから──」
「トモ」
新島と言いかけた自分をギリギリで制しつつ、俺は新島あらためトモに呼びかけた。
「なにを持ってた」
「ゴーレムですっ」
今度はトモが即答した。鳥の巣頭は、やれやれ、とため息をついている。
カウントダウンは10秒を切った。
「ああ、そうそう──リン、これが元凶の元ツクヨミ」
「知ってる」
リンは両腰の《バーストガン》を確認しながら応えた。
「あんたが死ぬ少し前に挨拶したから」
「あー、さっきか」
「そっ。さっき」
カウントダウンは5秒を切った。
背後の蒼海騎士団は壁役の甲冑盾騎士、削り役らしき槍や剣を持っている連中、これらの背後でカードを何枚も手にして打ち合わせしているのが呪文屋や治療屋だと思われる。こうして見ると、蒼海の連中は集団戦闘の練習をかなり積んできているようだ。少なくとも役割分担はしっかりとしているようだが……
カウントダウンは3秒を切った。
「じゃあ……」
俺はリンに向けて苦笑した。
「やるぞ」
「OK」
相棒は両手の銃の安全装置をカチカチッとはずした。
──BATTLE START
マシンボイスが聞こえた。
その瞬間、俺は逆鱗を輝かせ──振り向きざまに拳を繰り出した。
鳥の巣頭の顔面に右拳がめり込む。かと思うと、鳥の巣頭の体は、少し奥に控える蒼海騎士団の連中のところまで吹き飛んでいった。多分、俺より背が高かったせいだろう。顔面を狙ってストレートを放ったつもりだが、高さがあったせいで、微妙に上へと殴りあげてしまったのだ。
「えっ──」
アオザイ女が驚きながら吹き飛ぶ鳥の巣頭を目で追いかけたが、その腹に、相棒は両手の《バーストガン》の銃口をぴたりと押しつけている。
「藍子様」
リンは上品な笑みを浮かべた。
「ごきげんよう」
そのまま2丁の《バーストガン》が火を吹いた。吹きまくった。
腹部を押さえようとしつつ、突然の凶行に対応しきれないまま芝生のうえに転がっていく相棒の先輩のアオザイ女。リンの紹介からすると、俺なんか想像もつかないほど上流な世界に生きている超お嬢様なのかもしれないが、こうなってしまうとお嬢様もなにもあったものじゃない。
と、相棒が俺を見た。視線がかみ合う。
「………………」
「………………」
俺たちは無言のまま、ニヤッ、と笑いあった。
蒼海の連中が騒ぎ出したのは、この時になってからだ。
「な、なにしやがる!」
「だ、団長! しっかりしてください、団長!!」
「リューネさんまで!?」
「おまえら! こっちは敵じゃないだろ!?」
ここに来てまだそんなことを言っている上に、現在進行形で撃たれまくっているアオザイ女を助けようともしない。なかなかもって、実に使えない連中ばかりのようだ。それだけ組織化が進んでるとも言えそうだが。
一方。
──ゴゴゴゴゴゴゴッ!
俺たちから見て蒼海とは逆の方向から地鳴りのようなものが響いてきた。
巨石のひとつが、震えながら盛り上がっている。
かと思うと、巨石の脇の地面が水面のように盛り上がった。そこからズサササッと土砂をかきわけながら石造りの腕が突き出てきた。
──ズンッ!
巨大な手は、地面につくだけで揺れを生んだ。
「あーっははははははは!」
どこからともなくキンキラ部長様の高笑いが」聞こえてくる。
「ノーリミットを承諾したのは貴様だぞ、《青》のSHIN!!」
「そ、そうだ! おまえが悪いんだ!!」
ゴゴゴゴゴッ──っと、もう1体、同じような巨体が起きあがる。
声は電算2号。多少は元気になったらしい。
「《ロックゴーレム》は《ストーンゴーレム》より上だぞ!! 強いんだぞ!!」
訂正。まだ尾を引いているようだ。
まあ、それもそうだろう。いずれ治るにしても、今すぐではないはずだ。
「シン!」
相棒が目を輝かせながら俺を見た。
「2匹いるんだから、1匹ちょうだい!」
「じゃ、終わるまで俺は向こう」
と、隊列を組みだした蒼海のほうを顎で示した。
リンは一瞬だけ悩んだが、すぐ、うなずいてきた。
「でも、あまりは全部わたしの。OK?」
「OK、相棒」
俺は右拳を突き出した。
リンは満面の笑みを浮かべながら、拳を拳で殴り返してきた。
ようやくの、この顔だ。
しかしまぁ、巨大な怪物と戦えるのがうれしくて心から笑顔になる、なんていう女は日本中を探してもコイツぐらいしかいないような気がする。もっとも、類は友を呼ぶ、というだけの話しなのかもしれない。
いずれにせよ。
俺が蒼海のほうに突撃をかますなり、我が相棒は部長様と電算2号に、こう呼びかけた。
「よーし……ねぇ、スサノオはどっち? アマテラスのゴーレムはシンのために残してあげるから、スサノオのゴーレム、手をあげぇ!」
「な、なんだおまえ!? 邪魔すんな!!」
「ああ、こっち?」
「いいからどっかいけ! 僕の相手は──」
「あんた……いい度胸してるわね」
リンはニヤッと笑うと、《バーストガン》を腰のホルスターに収めた。
「わたしが誰なのか、まだわかんないの?」
「う、うるさい! 邪魔すんな! 僕は……僕は!!」
「スサノオ、待て! その女は──」
「暴走海賊の片割れよ!」
相棒はそう怒鳴りつけながら《ブラストバルカン》を具現化させ、身のため4メートルはあろうかという巨大なロックゴーレムめがけて銃撃音を響かせていった。電算2号が悲鳴を上げたのは言うまでもなく、繰り返されるおおざっぱな攻撃命令を忠実に守るロックゴーレムが見ている合間にもどんどん削られ、無惨な姿になっていく。
「……さすが俺の相棒」
俺は蒼海の甲冑盾騎士を《ライトレッグ》──ゲーム的なダメージを一定時間増やしてくれるアビリティ──で輝かせた右足で踏みつけながら、そうつぶやいていた。最後の甲冑盾騎士がその一撃でカシャンと砕け散り、消えていく。俺を取り囲む近接戦闘要員や銃器&呪文要員らしき面々は完全に腰が引けているようだ。というより、剣槍の面々はともかく、火器の面々までグルリと取り囲むのは危険だと思うのだが……
「ガンナー! 下がれ! ヒーラーの前に2列横隊!!」
鳥の巣頭の声が聞こえた。
「残ってるタンクはソードに入れ! 総員、ラスボス戦パターンB!!」
指事の声と共に蒼海の動きが変わった。
戸惑いの目も一瞬にしてしっかりとしたものに変わっていった。
「いいな、みんな! ラスボス戦パターンBだ!! パターンBだぞ!!」
剣槍持ちの間から3本角の兜を被る海色の甲冑騎士が進み出てきた。純白の布地に横幅の広い両刃短剣を意匠化したクランマークを青く染め混んだマントを羽織り、手には片手で持っているのが信じられないくらいに極太で重厚、おまけに柄から峰にかけて珊瑚が彩られているという奇妙な片刃直剣を持っている。どう見ても、こいつが鳥の巣頭だ。
「不意打ちはないだろ、シンくん」
どうやら正解らしい。
「バカは黙ってろ」
俺は鳥の巣頭を見ずに釘を刺すことにした。
まるで狙ったかのようなタイミングで、逆鱗の燐光が消え去った。
「ことあるごとに何度も何度も何度も何度も、俺は言い続けてきたつもりなんだが……自分だけは例外だと思ってたのか? だとしたら正真正銘のバカだ」
「……挑発にしては、安いね」
「挑発? 違う。釘を刺す意味で言ってんだよ。なにしろさっきから、不意打ちがどうのとか、敵がどうとか味方がどうとか、卑怯だとかなんだとか……」
俺はため息をついた。
「ざけんな」
ぐるりと蒼海の全員をにらみつける。
「もう一度、ここでも、改めて、物覚えの悪いおまえら全員にわかりやすいように、しっかり教えてやる……いいか、よく聞け。トレーニングの全メニュー、ランクSクリアできないやつは、俺にとってただの邪魔者だ。もっとわかりやすい言い方をすれば……敵だ。で……どうなんだ? おまえはトレーニング全メニュー、ランクSクリアできる人間か?」
「残念ながらガンタイプだけだね。ギリギリ、S評価が出るのは」
「論外だ。そのくせ俺に近づいて……殴られて、不意打ち? 何様のつもりだ?」
「そういう君は、何様なのかな?」
さすがの鳥の巣頭もカリカリきだしたようだ。
もっとも、俺とリンが感じた苛立ちと比べれば、まだまだささやかなものだろうが。
「何様だって?」
俺はふと、さっきの相棒の啖呵と、自分の着ているTシャツのマークのことを思い出した。
髑髏と十字の骨──海賊旗の定番とも言うべきマーク。
「──海賊様だ」
なんとなくつぶやいてみた。だが、妙にしっくりくるものがあった。
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