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ONLINE : The Automatic Heart

[04-10]


EVENTS INFORMATION

〜百諸島キャンペーンイベント「海賊王の遺産」〜

#03「呪われた海賊島:十字骨編」


幽霊船に導かれた諸君は、海賊団「クロスボーン」の秘密砦へとやってきた

だがそこは死者が住まう呪われた処だった……



※INFORMATION
勝利条件悪霊ベリオンの撃退
敗北条件パーティ全滅
勝利報酬なし



イベントスタートまで 10 秒




 そのウィンドウが表示されたのは、島の東側に突き出た桟橋に幽霊船が横付けされようとしている最中のことだ。
「なに、この勝利条件」
「降りてみればわかるんじゃないか?」
 桟橋に船が横付けされたところで、イベントがスタートした。
 それまで甲板の船縁に巻き付いていた縄ばしごが、自動的にバサッと降りた。
 俺たちはそれを使って浮き桟橋へと降りていき、その先にある岩山に空いている穴の置く、登り階段の先へと向かってみた。
 少し進むと、いかにも幽霊屋敷といった感じの薄汚れた木造建築の中に出た。
「今度は屋敷モノ?」
「ホラー系ゲームの伝統ってところだな」
 実際、適当に開きそうなドアを開けていくと、たまに骸骨海賊があらわれ、襲いかかってきた。もちろん、1体ずつしか登場しないので、俺たちは瞬殺しながら部屋をいろいろと回っていった。
「そう言えばさ。昔の『バイオハザード』ってこんか感じじゃなかった?」
「昔って……旧約のことか?」
「ほら、リバイバルされたじゃない。NIN−DOで1、2、3がセットになったやつ」
「あぁ、あれか。確かに1っぽいよなぁ」
「2とか、ありえなくない? 警察署なのにあの仕掛けって」
「ゲームだからいいんだよ。リアルすぎるとつまんないだろ」
「でもさぁ、いちいち警察署に仕掛けなんか作る?」
「それを言い出したら、ゾンビそのものがリアルじゃないだろ」
「それとこれとは別じゃない」
 などと無駄話をしながら、俺たちは幽霊屋敷の探索を楽しんでいった。
 とりあえず仕掛け(ギミック)がありそうなところを探していき、ゲームデザイナーの意図を考え、それに相応しいアイテムを探し出して、はめ込んだり、置いたり、流し込んだりしていく。これはゲームだ、という意識が強いせいか、ホラーアトラクションとして以上に、謎解きの部分に妙に燃えてしまった、という感じだ。
「なによぉ、なんで鍵が“鷹の像”なわけ?」
「ここに鷹が描いてあるんだから、そうに決まってんだろ」
「他のものでもいいじゃないのぉ」
 などと言い合いつつ、イベントを進めていく。
 あくまで仮定の話をさせてもらうと――カップルだったら、それなりに楽しめたかもしれない。突然落ちてくる首つり骸骨とか、不気味な笑い声とか、襲いかかってくる骸骨海賊とか……PVというより幽霊屋敷を意識した演出が随所に組み込まれていたのだから、普通の女ならキャーキャーと五月蠅かったと思う。
 だが、リンは普通の女じゃない。
 というか、恐がらせるような仕掛けが動くと、間髪入れず《バーストガン》を撃ち込むのだから、仕掛けもくそも色気もない。
「はい、終わりっ」
 最上階らしきところで、巨大な骸骨船長とのラストバトルがあったものの、俺たちはこれも()()を使ってサクッと終わらせてしまい、灰色化する骸骨が風化するのを待つだけの状態になっていた。
「スタッフが泣くな、ここまで呆気なくクリアされると」
「わたしたちって、もとから基準になんないんじゃない?」
 さもありなん。
「あっ、出た出た」
「どれどれ」
 俺たちは巨大骸骨船長が消えた天井の無い礼拝堂っぽい場所で、目の前に強制展開したウィンドウを読み出した。

EVENTS INFORMATION

〜百諸島キャンペーンイベント「海賊王の遺産」〜

#03「呪われた海賊島:十字骨編」


― CLEAR ―

諸君は悪霊ベリオンを倒し、海賊団「クロスボーン」の呪いを解いた!

だが道標はここで途絶えている

新しい手がかりは 広大な海のどこかに……?


※INFORMATION
クリアボーナスなし



特別購入チャンス

諸君は「船」を購入することができる!
幽霊船が横付けされた桟橋まで戻ってみよう!




「だってさ。どうする?」とリン。
「買えってことだろ?」と俺。
 俺たちは階段を降りていき、桟橋まで戻ってみた。
 念のため時刻を確認すると、11時30分を過ぎていた。なんだかんだと屋敷の探索に1時間近い時間を費やしていたようだ。まぁ、いざとなれば水域を泳いで砂浜まで行き、そこのログインボックスからログアウトすればいいので、慌てる必要も無いだろう。
「あ、NPC(マネキン)
 桟橋に戻ると、俺たちが乗ってきた船が消えていた。
 代わりに桟橋の先端に、小さな酒樽に腰掛けている小柄なNPCが座っていた。
 近づいてみる。
「おぉ、まじょうしさんか。わしはふなだいくの“ごるあー”じゃ。ふねがほしけれてばうってやるぞ」
 ウィンドウが展開する。
 普通のNPC商店と同じに見えるが、取り扱っているカードは、どれも船舶関係、それもけっこう本格的な船名付きの帆船が売られている。そればかりか、リストの一番最初には《マップ・オブ・ハンドレッド・アイランズ》という古地図の絵が描かれているカードと、《コンパス・オブ・ハンドレッド・アイランズ》という羅針盤が描かれたカードが売られていた。
「リン。まず地図とコンパス」
「えっ? あ、うん」
 リンが《マップ・オブ・ハンドレッド・アイランズ》と《コンパス・オブ・ハンドレッド・アイランズ》を購入。思考操作でカードを呼びだし、テキストをじっくりと読み込んでからカードを収納した。
「パーティウィンドウに地図って項目が追加されるみたい」
「へぇ」
 展開して確かめてみると、確かに“MAP”という項目が追加されていた。
 マップウィンドウを開いてみる。表示されたのは“百諸島(ハンドレッド。アイランズ)”の俯瞰(ふかん)図っぽいものだった。ついでによく見ると、地図の右上には、赤い光点が点滅していた。
「赤いのが現在地みたい。あと……ほら、ちょっと見て」
 リンはNPC商人のウィンドウを手にとり、俺に見せながら帆船のカードを指さした。
「ここに座標が書いてあるでしょ? 帆船って、その座標に母港があるって設定みたい」
「……あぁ、なるほど。ほとんどが神殿島(パンテオンアイランド)だな」
「北側かな? 見てなかったもんね」
「だな」
 そこから俺たちは帆船カードを1枚ずつ見ていき、
「ねぇ、これって……」
「……だな」
 あることに気が付き、うーん、と悩みこんでしまった。
 それというのも――神殿島(パンテオンアイランド)を母港にする帆船は、どれも性能が悪そうなのだ。ただ、他の場所に母港がある帆船は、どれも高額な上に、購入条件というものが付いている。
 ぶっちゃけると、氏族を結成していないと買えないのだ。
 どうやら高性能の帆船は、船と一緒に母港となる島も購入することになるらしい。不動産物件の一種というわけだ。そして、説明によると、どの母港にもスフィアが付いているらしい。つまり高性能の帆船を買うなら、海賊団を旗揚げしろと……まぁ、そういうことらしい。
「どうする? 一応、全部買えるけど?」
「待て。一番高い帆船、2000万クリスタルもするぞ?」
「ほら。昨日、いろいろと売ったでしょ? 武装商人(アーチャン)に」
「いや、でも……2000万だぞ、2000万」
「ここまでのイベントで獲得した分もあわせたら……えっと、全部で2527万5403クリスタル」
 俺は口をポカーンと開けた。
 えっと。
 まぁ、なんだ。
 なんでそんな大金が?
「あ、そっか。話してなかったけど、ベルンさんに運用のほうも任せてたのよ」
「……うん……よう?」
「ほら、蒼都の青空市場って、転売目的でいろいろやる人もいっぱいいたでしょ? それにわたしたちがお金持ってたって、どうせ使わないんだから意味無いじゃない。それにベルンさんって信用できそうだから、投資してみたのよ。そうしたら、最初の100万が800万になって返ってきたし、追加の分も預けたてみたら、あれよ、あれよっていううちに、ここまで膨らんだのよ」
 恐るべしマネーゲーム。
 いや……この様子だと、裏に蒼海騎士団がいるな。確証は何もないが、こんな大金が市場で生まれるには、大量の流動資金が必要なはずだ。なにが目的なのかわからないが、わざと大量の金を市場に流してるとしか考えられない……
「どうせだから一番性能のいいやつにする?」
「……任せる」
 俺は額を抑えながら答えた。
「うん。じゃあ、この《クロスボーン=プライベーティア》ってやつね」
 リンが購入手続きを済ませると、俺たちは母港とやらに強制転移させられた。


━━━━━━━━◆━━━━━━━━


 転移先は、いつものようにボックスの中だったが、鏡に表示されていた現在地は、“HANDRED ISLANDS”の“CROSSBONE ISLAND”というものだった。
 そして、外に出た俺たちは、しばらく言葉を失っていた。
 頭上には夏の青空。
 目の前には白い砂浜と広大なる南洋のゆらめき。
「これが……俺たちの?」
「うわぁ……」
 リンの目はキラキラと輝いている。
「すごい……すごい、すごい、すごーい!」
 相棒は声を張り上げながら波打ち際へと走り出した。
 波打ち際は浅瀬だが、途中から急に深くなるらしい。リンは走りながら次々と装備を収納、《シャークウェア》だけになると同時に、きらめく波間へと身を躍らせていった。
 元気なやつだ。
 それにしても。
「大当たり……か?」
 俺はガリガリと頭をかくと、改めて周囲を眺めてみた。
 どうやらここは×印の小島らしい。中央に岩山があり、それ以外の部分は椰子の木に覆われている。岩山の南側には仮設トイレに見えるボックスが6台あり、その横にある木造の階段を登るとログハウス的な建物があった。
 中に入ってみる。
 屋根が軽く傾斜している二階建ての木造家屋に見えたが、リビング、ダイニングキッチンとつながっているエントランスホールは吹き抜けになっていた。天井では照明付きの大きな回転翼が3つも回っている。向かって右側には雨戸がズラリとはめ込まれているが、すべて外すと広いバルコニーに出られるようだ。
 左側にはドアが3つと奥に螺旋階段がひとつあった。
 ドアの向こうは客間っぽいベッドとテーブル付きのワンルーム。螺旋階段を登ると、寝室と2間続きになっている広々とした執務室に出た。
 ここも天井が高い。シャンデリアと一体化しているプロペラが、音もなくゆっくり回っている。
 他に家具らしいものは何も置かれていないが、それは自分たちで買えということらしい。
 で。
「これが……」
 執務室に入った俺は、執務机上に浮かぶものを見上げ、改めて感心していた。
 サッカーボールほどの青い水晶を、3枚の黄金のリングが取り囲みながらクルクルと自発的に回転させているオブジェクト――スフィアだ。
 これが配置されている不動産を手にいれなければ、たとえどれほど人数を集めていようと氏族を結成できない。逆にいえば、どんな形にしろ、これのある不動産さえ手に入れれば、たった1人でも、そのユーザーは氏族を結成できる。そんな代物だ。
 ちなみに氏族(クラン)には、いろいろなメリットがある。
 最大のメリットは“同族間の音声通信”だ。同じ氏族のメンバーであれば、異なるフィールド間であろうとも音声通信が可能になるのだから、その恩恵は計り知れないものがある。
 また、パーティウィンドウのようにクランウィンドウというものが追加される。メンバーのログイン状態をチェックしたり、録音メールを残したりすることができるばかりか、なんと氏族員はいつでも氏族本拠地(クランホーム)のボックスへ緊急転移することができる。つまり氏族のメンバーになりさえすれば、リミットタイムぎりぎりだろうと、ボックスを探して右往左往する必要が無くなるのだ。
 もちろん、一方通行なのだが、タイムアウトのデメリットが減るのは極めて重要だ。
「シン、どこぉ!?」
 リンの声が聞こえた。
「ここだぁ!」
 俺は殺風景な執務室の中で声を張り上げた。
 すぐ、半開きのドアが開き――ビキニ姿のリンが入ってきた。
「…………」
 おい。
「あ、ここがクランリーダーの部屋? へぇ、あれがスフィアなんだぁ」
 呆気にとられる俺を余所に、リンはスタスタとスフィアが浮かぶ執務机に近づいた。
「……待て」
「なに?」
 リンが振り返る。
 なんというか。
 ええっと、だな。
 一本に編み込まれた癖の無い金髪。
 小麦色に焼けているとも言える浅黒い肌。
 胸こそ貧相だが、四肢がスラリと伸びていることもあり、けっこうスタイルがいい。
 んで、白いビキニの水着なわけだ。
 そういえば今年の流行がこれだとか、飯時のTVで言ってたような……。
「なにか問題でも?」
「……そんなもん、いつ仕入れたんだ?」
「昨日に決まってるじゃない」
 リンは腰に両手をあてつつ、ムッとしながら俺を睨み付けてきた。
「で、なにか問題でも?」
「いや」
 俺は頭痛を覚えながら、とりあえず姉貴の教え──女性は褒めておけ──に従おうと思った。
「まぁ、あれだ。似合いすぎだろ。それ」
 リンはなぜか、さらに強く俺を睨んできた。
「だったらなんなのよ」
「勘弁しろよ……」
 目のやり場に困った俺は、とりあえず武器と《ハーフレザージャケット》を収納し、さらに《スケール・オブ・ブルードラゴン》も収納した。これで身につけているのは《シャークウェア》と《ハーフパンツ》と《ショックシューズ》だけになったが、リンが素足であることから、俺も《ショックシューズ》を収納し、楽な格好にさせてもらった。
「とにかく、さっさと氏族の設定すませて船のほう見に行くぞ」
「あっ、そっか。クランリーダーって購入時のパーティーリーダーだっけ?」
「デフォルトだとな」
 つまり現時点では俺が仮のクランリーダーになっているということだ。
 というわけで俺は、執務机を迂回し、椅子に座ってみた。
 机の上に大きなウィンドウが出現した。
 クランリーダーウィンドウ──クランのリーダーがスフィアテーブルに設定されている場所で展開できる特殊なウィンドウだ。もっとも、表示されているデータのほとんどが、今は“NONE”の状態になっている。これらすべてを登録しておかないと、氏族は結成したことにならない。そういう仕様だ。
「名前、どうする?」
 リンが俺の背後に立ちながら尋ねてきた。
「適当でいいだろ。なんかあるか?」
「急に言われてもねぇ……」
「まぁ……サブリーダーはおまえだろ? クランタイプは“攻略”。あとは……」
「メンバー募集はNOよね?」
「当然。シンボルは……」
「デフォルトの中から選ぶ?」
「……あ、これでいいだろ」
 俺が仮選択したのは骨の×印を背景に、真ん中に海賊船長っぽい帽子を被る髑髏が配置されている海賊『クロスボーン』のデフォルトマークだ。
「悪くないんじゃない?」
「じゃあ氏族名(クランネーム)もそのままにするか……」
「サブネームは?」
「なにかアイデアは?」
「ん〜っ……クランネームと一緒でいいんじゃない?」
「シン=クロスボーンか……」
「そっ。わたしはリン=クロスボーン」
 氏族に所属すると、氏族ごとに設定されているサブネームが外装名の後に表示される。氏族名のままでいいだろ、という意見もあるが、スタッフ的にはこだわりがあるらしい。
「じゃあ、そうすっか」
 氏族名(クランネーム)は“クロスボーン(CROSSBORN)”。
 副次名(サブネーム)も“クロスボーン(CROSSBORN)”。
 氏族長(クランリーダー)は俺。
 氏族副長(サブリーダー)はリン。
 氏族傾向(クランタイプ)は“攻略重視”。
 氏族旗(クランシンボル)は暫定的に十字骨そのもの。
 以上を決めると、ようやく氏族結成が認められ、さらに船体の氏族所有も正式に認められたとするウィンドウが展開した。
「おっし。じゃ、船を軽く見て、今日は終わりだな」
「あ〜あ、もっと時間あれば、好きなだけ泳げるのに……」
「今度にしろ、今度に」
 俺たちはログハウスを出て桟橋を歩き、帆船へと向かった。
 そこでまたいろいろと驚いたり呆れたりしたあと、俺たちはリミットタイムが迫ったので、ログアウトすることにしたのだった。

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