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[01-00]
授業中にも関わらず、俺はボンヤリと窓の外を眺めていた。
退屈だった。
だったら授業に集中しろ――と言われそうだが、やる気がでない。
スポーツで発散しろ――とも言われそうだが、だるいからパス。
趣味に没頭したら?――と言われても、趣味らしい趣味が無いので無理。
欠伸をひとつ。
授業に意識を戻すと、老齢の歴史教師が17条の憲法を黒板に書いていた。俺はブレザーの内ポケットから、スライド式の携帯電話を取り出して、ゲームを立ち上げた。隣の席に座る女子が睨んできた気もするが、チクる様子もないので放っておくことにする。
しばらくすると放課後になった。帰り支度を済ませ、ボーッとしながら教室を出る。
クラブ活動はやっていない。やる気がおきない。ゲームばかりしているという噂の電算部に入りかけたこともあったが、上下関係が面倒なので最終的にパスした。とはいっても、帰ってもやることが無い。いつものように、登下校路の途中にある繁華街でゲーセンに寄ることにする。
席が空いていたので『 Ultimate Sword γ 』という対戦格闘ゲームで軽く遊ぶ。
キャラ選択をランダムセレクトに任せると、ゲームの主人公格にあたる黒衣の剣士になった。コマンドやコンボは全キャラ分、すでに覚えているので、俺はそのまま、CPU戦を始めた。
1戦目の蜥蜴人戦は完勝。
2戦目の斧使い戦も楽勝。
3戦目は刀武者――と思ったら、乱入された。
乱入者の選択キャラは、黒衣の剣士と同系統にあたる細剣の女剣士――スペック的には黒衣の剣士より上とされている――だった。もっとも、いざ初めて見ると、このキャラの持ち味といっていい中上段と中下段の使い分けが単調すぎて、話にならなかった。
ゲージが溜まったところでエクストラスキル発動。小下段、中上段とつなげて乱舞系の超必を発動。これで終了。退屈だ。
と、乱入者は再びコインを投じてきた。
今度の選択キャラは、小柄な大剣使い――このゲームの隠しキャラだった。
俺は少しムッとした。
こいつは反則級のスペックを持っている。スピードが速く、攻撃レンジも広く、隙も少なく、ゲージも溜めやすい。おまけに超必は回避不能。盾騎士であれば逆にカモれるが、スピード系では1本とれれば上々。そんな反則級のキャラであるため、特殊な操作をしないと選択できないようになっている……
案の定、早々に2本とられ、俺は負けてしまった。
「…………」
後ろに“待ち”が居ないことを確認。連コインで再挑戦する。
選択キャラは――黒衣の剣士。
また負けた。
連コイン――黒衣の剣士。敗北。
連コイン――黒衣の剣士。敗北。
連コイン――黒衣の剣士。敗北。
連コイン――黒衣の剣士。1本とったが、敗北。
100円玉が尽きた。
「…………」
ムカついた。なによりムカついたのは、最後の対戦でコマンドの入力ミスをやらかしたことだ。それも超必の出し損ないだ。
俺はムカついたまま席を立ち、外の出ようとした。
今夜は家で前作のコンシューマー版をやりこもう。すべてはそこからだ。
――ヴーン、ヴーン、ヴーン
不意にケータイが震えた。メール着信のバイブレーションだ。
メールは叔父からだった。
――ゲーム、好きか? 好きならくれてやる!
少しめまいがした。
前から思っていたことだが……俺の叔父は、どこか変わっている。本当にこの人は、あの“石橋を叩いて渡らない”がモットーの親父の弟なんだろうか。職業もよくわからないし、いい歳なのに浮いた話も聞こえてこない。
ともかく。
俺は本文を空白のまま、『YES』という題名で返信しておいた。
LOG.01 " GAME START "
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