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Deadly Labyrinth : The Automatic Heart

[13]


 翌朝――と思われる時間――レイスたちは第二階層泉部屋への引っ越しを敢行した。
 その際、自治会に断りに行ったレイスが、
――団結するのが筋だろ!
 と怒鳴られ、
――敵対する気はない。だがこっちは攻略に専念する。情報が必要ならいつでもやる。以上だ。
 と言い返すという一幕もあったが――
「とうちゃーく!」
 泉部屋にランスロットが入っていったのは出立から三時間後、十五日目の正午を過ぎたあたりのことだった。
 “泉部屋”とは一行の俗称にすぎない。正式名称は“リカバリーポイント”、中央に噴水を持つ三×三ブロックの部屋のことである。第一階層には存在しないが、ここにいるだけで五分と経たずHP、MPが全快するという特殊な場所だ。
 なお、第二階層の泉部屋は隔壁のようなドアが南側と南東側にひとつずつある。また、南西のブロックには、売却物に関する制限は無いものの、取り扱っている商品は回復系のクリスタルのみというSHOPの看板が立っていた。
「寝床は奥だ。ドア近辺は塞ぐなよ」
 SHOPを確認したレイスは、部屋の北側に寝床を作るよう指示を出した。
 こうして寝床造りが始まったのだが――
「待て待て、それはそっちだろ」
「それだとこっちが狭くなるって」
「ええっと、こうだとするとベッドがここになるから……」
 寝床に用いるインテリア系アイテムは、少々、取扱が面倒だったりする。
 そもそもアイテム類はウェポン、アーマー、アクセサリー、エクストラ、フード、インテリアの六種に分かれている。ウェポンは武器、アーマーは防具、アクセサリーはそれ以外の装備品、エクストラにはヒールクリスタルやフレイムボムなどの戦闘に関係する消費アイテムが分類されている。残るフードとインテリアは、今は戻ることができないマイルームで使用することを前提とした特殊なアイテム区分であり、それゆえに両者ともに通常のアイテムとは何から何まで扱いが大きく異なっているのだ。
 一番の違いは具現化の手順だ。まずウィンドウ操作で具現化を指示すると、重さゼロの半透明な状態でプレイヤーの前に出現する。この状態のアイテムは所有者しか触れられない。これを実際に具現化させるには、設置可能な場所に配置し、その時点でようやく出現するアイテムウィンドウの“SET”ボールオブジェをノックしなければならない。
 なお、フード系とインテリア系は具現化したまま階層を越えて移動することができない仕様になっている。仮にペットボトルを持ったまま転移しようとすると、ペットボトルはその場に残り、床に転がることになるのだ。
 以上を考えると理論上は盗めないことになるが、オブジェ化するには触れている必要があるため、遠くまで運び、所有者が触れられない状態にしてしまえ、盗んだも同然の状態になる――という危険性も少なからず残っている。もちろん、フード系なら食べてしまえば、それまでだ。
「あーっと……隊長ぉ、スペース限られてるんすが、どうします?」
 一同を代表してバッシュがレイスに尋ねた。
 レイスはしばらく黙したままバッシュを見返す。
「……“隊”?」
「いえ、コロシアムの連中、俺たちのこと“攻略隊”とか呼んでるでしょ。だから――」
 バッシュはレイスを指さした。
「隊長」
「ふむ」
 彼(彼女)はしばらく考えてから、グルリと周囲を見回した。
「時間ならたっぷりある。試行錯誤しろ」
 こうして一行の名称は“攻略隊”に、レイスの呼称は“隊長”になった。


 三×三ブロックのうち、南西のSHOP、中央の噴水の周囲には信義の問題から、南側中央のドアと東側の南寄りドアの前には安全の問題から寝床を作るわけにはいかない。よって空いている場所は九ブロック中五ブロック。
「単純計算で一ブロック六人ずつ……」
 巨漢の重戦士ボイルはボソボソっと自らの意見を口にしていた。
 本名は田中嘉子(たなか・よしこ)。二十七歳のOLだ。どうせ他人になれるなら完全な別人になってしまおうと男性外装のマッチョな大男を選んだという強者(つわもの)である。
「ええっと……ひとりの面積が…………」
 天井を見上げつつ計算をしていたのはポニーテイルの聖職者マコだ。
 本名は北浜早苗(きたはま・さなえ)。十九歳の大学生。友達と一緒に行ったアミューズメントパークで『WIZARD GUNNER BATTLE-ROYAL』に触れ、そこでPVに惚れてしまったというありがちなプレイヤーの一人だ。なお、外装は子供の頃に再々々放送で見た某TVアニメの美少女戦士そのものである。リアルの姿は“乙女の秘密”ということらしい。
「二畳が一.八メートル四方ですから、それを目安にしたらどうですか?」
 打開策を告げたのはサラリとした茶髪が印象的な聖職者マサミだ。
 本名は児島政美(こじま・まさみ)。十九歳で、稼業の居酒屋の手伝いをしているらしい。『WIZARD LABYRITH』を始めた理由は“刺激を求めて”というもの。外装は自分のものに多少、手を加えた程度で、それほどいじっていないそうだ。
 この三人のプロフィールが正しいという保証はどこにもない。
 嘘を告げている可能性もある。
 だが、今のところ、否定する要因はなにひとつない……
「一.八? だとすると……」
「縦長の三畳ぐらいを目安にしませんか? 壁もそれなりにとって、通路もちゃんと作ったほうが落ち着けると思いますし」
「いえてる、いえてる。じゃあ、横幅一.八にするとして――」
 その後も三人娘(?)を中心にして、レイスとリーナを除く女性プレイヤー十一名はわいわいと盛り上がり始めた。
「だとさ」
 赤毛のバッシュが、クロウを除く男性陣十四名に話をふった。
 本名、時田功治(ときた・こうじ)。二十八歳の会社員。学生時代にはバックパッカーとして世界中を旅行したという経歴の持ち主であり、PVは“面白そうだから”という理由で手を出したという平均的(?)な非ゲーマーである。外装は毛の色と髪形を“PMC(パーソナル・モデル・チェンジャー)”で軽くいじった以外、完全にリアルそのものであるらしい。
「まぁ、こっちは雑魚寝でもいいんじゃねーの?」
 ランスロットが適当に答えた。
 名は織田信長(おだ・のぶなが)。偽名だが、これは本人の“ネットで個人情報を晒すと危険だから”という信念(?)に基づくものであり、キャラクターネームで呼び合う現状では大目に見られている。年齢は二十、某国立大学の漫画研に所属するアニメ・ゲームのマニア。外装はカッコイイものを目指してPMCをいじくり倒した結果だ。ちなみに攻略隊では“うっかり八兵衛”として認識されている。
「んなこと言って、襲ってくる気とか?」
 苦笑まじりに答えたのはグラマラスな黒髪の美女、キリーである。
 本名は霧島豊(きりしま・ゆたか)。二十一歳の大学生。冗談半分で予約権獲得を狙ってみたら成功してしまったという変わり種だ。外装は、女性になれるなら試してみるか――という程度の思いで選んだだらしい。実を言えば攻略隊男性陣の中でバッシュをも越える影の実力者なのだが、その理由は攻略隊の女性外装男性プレイヤーが彼一人であることと無関係ではない。
「まっ、こっちも横幅一.八の奥行き二.七でスペース区切ってみるか」
「うぃーっす」
 こうして寝床作りが始まることになった。
 インテリアの種類は多種多様だが、組み合わせ等の問題から、攻略隊では壁代わりに使うインテリアを“スタンダードタイプ”のものに限定している。中でも彼らが多様しているのはW90×H200×D50という戸の無い自在棚だ。
 最終的に一行は微妙に間隔を調整し、北側の壁に十一例の棚の壁を作った。
「向かい合わせでもう一列?」
 マコがバッシュに尋ねた。
「とりあえず並べるだけ並べるか」
 最初は分かれていたはずの男女が共同で作業を進めていった。
 こうして最終的に左右対称な三十四の寝床が完成。人数より多いのは、他のプレイヤーが宿泊を希望した場合に備えての配慮である。

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配置が一段落つくと、今度は場所取り大会が始まることになった。
 まずそれぞれが第一希望の部屋に向かう。希望者が一人ならそこで決定。複数ならレイスの合図と共にジャンケンを行い、負けた者は他の空室に向かう。そこで再び複数が選んでいればジャンケン大会。これを繰り返し、全員の場所を決める――というものだ。
 ただ――
「私、バッシュ、クロウ、リーナの場所は最初に決める」
 噴水前(99)に集まった一同を前に、レイスはそう宣言した。
 当然のように「え〜っ」という声があがる。
 レイスは男女を分ける通路の左右を指さしながら、
「黙れ。私はそこ(9)、バッシュはそこ(23)。リーナとクロウは、それぞれの前だ。あとハッテン場はキリーに教えてある。使いたいやつらは同意の上で勝手にやってろ。いいな?」
 レイスはグルリと一同を眺めた。
 PVシートは高額だ。そのためプレイヤーのほぼ全員十八歳以上である。自己申告を信じる限り、例外は十五歳になったばかりというクロウと、今年で十五歳になるというリーナだけだ。
 だからというわけでもないだろうが、なんとなく言葉の意味を察したリーナは、顔を赤らめつつ、スススッと男性陣から離れようとした。
「そんな、逃げなくても……」
 思わずランスロットがぼやく。
 リーナはジッとにらみ返したあと、
「近づいたらぶっとばす」
 とつぶやいた。
 ドッと笑いが起こる。
 壁代わりの戸棚に寄りかかり、輪から外れていたクロウは欠伸をしながらボンヤリと考えた。
(さっさと終わらせろよ……)
 和やかな空気が、逆に苛立たしく思えて仕方ない――

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