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[00]
「ちくしょう! ちくしょう、ちくしょう、ちくしょぉおおおおおおおお!」
叫び続けた少年は、背を伸ばすなりカッと前方を睨みつけた。
十字路の彼方、地下迷宮第十階層の奥底には無数の赤い瞳が浮かび上がっている。いや、正確には無数の“赤い眼球そのもの”が浮遊している、と表現するべきだろう。大きさは千差万別。小さいものは握り拳程度だが、大きいものは直径二メートルを超えている。
「コールマジック!」
少年は叫びながら右手を振り上げた。直後、《システム》は彼の思考を読みとり、少年の視界の中に、眼球の怪物たちをスッポリと包み込むドーム状の緑色の光格子を映し出した。
「フレイム=エクスプロージョン!」
勢いよく、右腕が振り下ろされた。
世界が真っ赤に染まる。
轟音が轟き、熱気をはらんだ爆風は、少年のボサついた黒髪と黒い衣装を背後になびかせていった。
黒衣の少年――と呼ぶべきだろう。
東南アジア系を思わせる濃褐色の肌。下から順に、膝当てと一体化した黒革のロングブーツ、少しゆとりのある黒ズボン、鷹のバックルがついた黒いレザーベルド、躰にフィットしたノースリーブの黒いレザーシャツ。露出した浅黒い左腕と左頬を彩るのは、炎を思わせる奇怪な赤い刺青……
彼は自らの左肩を二度タップし、何もない虚空に手を伸ばした。その手がしっかりと握りしめた直後、鈍い銀光を放つ見事な太刀が白い粒子を放ちながら具現化していった。
「――うぉおおおおおお!」
横幅九メートル、高さ九メートル、奥行きは床に転がる松明の明かりが届かない彼方まで続いている石造りの地下迷宮の一本道――その途中に陣取っていた眼球の怪物たちがいた場所、十五、六メートル先の向かって、彼は叫び続けながら突進していった。
刹那、たちこめていた爆煙が外に向かって押し出されていく。
小さな怪物たちは消え去っていた。だが、直径二メートルを越す怪物が三体、糸でつり下げられているわけでもないのに音も無く浮かび上がっていた。
――WIIIIIIIII
――RIIIIIIIII
――RYUUUUUUUU
不快な高周波が鳴り響くと共に、怪物たちの瞳が赤く輝いた。
三つの光線がまっすぐ黒ずくめの少年に向かう。
光線が少年を貫く――かに見えたが。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
光線が貫いたのは残像だった。
彼は石畳を打ち砕くほどの踏み込みと共に、さらなる加速で怪物に迫った。
怪物の一体の真下を通過。
振り上げられた太刀は、怪物をまるで嘘のようにアッサリと両断した。
直後、彼は再び石畳を砕きながら無理矢理急制動をかけた。
さらに振り向きざま、太刀を振り抜く。
新たなる太刀筋が二体目の怪物を横に両断した。
「――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
まだ終わりではない。
勢いもそのままに、黒衣の少年はクルリと回転、上段に構えた。
さらに踏み込む。
右上から左下にかけての袈裟斬り。
ここでようやく、加速は終了した。
最初の踏み込みから袈裟斬りまでにかかった時間は、わずか一秒弱にすぎなかった。視覚効果はもとより、効果音や攻撃判定処理も終わりきっていない。それどころか、全ての剣閃が一本の光跡としてつながっている。
ただの光跡ではなかった。
漆黒の筋――死を呼ぶ影の軌跡。
踏み砕かれた石畳は、今更のようにドゴッと破片を飛び散らせた。
諸々の処理が一斉に始まった。
三体の怪物の上に“REDEYE”という赤い立体文字が浮かび上がった。その上には、さらに“CRITICAL HIT”という白い立体文字が浮かびあがった。名前の下に現れた緑色のゲージは一瞬にして緑から黄色、黄色から赤へと減少。ついには真っ黒になり、名前と共に消え去ってしまう。
――パリンッ! パリンッ! パリンッ!
ガラスが砕け散る音が三つ響いた。怪物たちは赤い粒子と化し、一瞬にして消え去ってしまった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――」
少年は全身で空気を貪り続けた。
心臓は今にも破裂しそうだ。体中が新鮮な空気を求め、ただでさえ過剰に動く横隔膜をさらに激しく動かそうとしている。もっとも、そうした感覚は全て偽りのものだ。高鳴る心臓も、心臓の形の立体オブジェが動いているだけにすぎない。横隔膜もそうだ。そもそも、少年の躰を構成する因子は酸素など必要としない。
しかし、《システム》は全てを忠実に再現している。全身の汗も、爆発しそうな鼓動も、立ちこめる硫黄の臭いも――
頬を伝う涙も
Prologue " Game Start "
To Be Contined
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