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[06]
私の最後の研究は失敗したことになっている。論文にも「人間に近づければ近づけるほど、虚構の世界の住人であるという事実に対するストレスが生じ、自我を保てなくなる」と結論づけているし、葉山京介自身、電話口で非常に残念がっていた。
ユーリアとの結婚は素直に喜んでくれた。
引退したいと告げると、しつこいぐらいに考え直せと言ってきた。
結局、私が島を離れたのは、大学で最初の契約書にサインをしてから九年が経過した時点での話だ。私とユーリアは守秘義務の制約と、一〇年間の監視を受けることを許諾した上でアメリカに渡り、ユーリアの母親の前で結婚式をあげ、義母の最後をみとった。
あとは、マスコミで流れているニュースの通りだ。
私たちはカリブ海の小島を購入し、そこで以前と同様の二人暮らしを続けている。実母の死に深く悲しんだユーリアも、今ではすっかり立ち直った。
仕事は、続けている。
世間では『人工知性の父』と騒がれているが、私の仕事はPV−OSのバージョンアップとツールの製作のみで、人工知性関係には何一つ手を染めていない。しかも一日の大半はユーリアと釣りに出かけたり、のんびりと昼寝をしたりと、グーダラな生活を続けている。まぁ、金は腐るほどあるのだから、大目に見て欲しいところだ。あまりにも早すぎる隠居生活だが、二〇代の大半も似たような生活を続けていたのだし、これはこれでいいのだろうと、個人的には思っている……
さて。
どんなもんかな。PVの日記ツールなんて需要があるのかわかったものじゃないが、うまく思考が文章化されていれば御の字だ。そろそろユーリアが英語版のテストを終えるはずだが……日本語版は漢字がネックだと思うが、どうだろう? いや、確かめればわかることか。
そうそう。
最近、ネットで面白い噂を耳にした。白いワンピースを着た少女の幽霊を目撃したという、都市伝説の一種だ。その幽霊のハンドルは『U』であるらしい。
ユー。
ユミ。由美。裕一郎。ユーリア。
なるほど、最初の音は『U』だ。我が娘ながら、なかなかいいセンスだと思う。
来年には我が家の住人が一人増える予定だ。その子の名も、必ず最初の音は『U』にしよう。だから……なぁ、ユミ。このデータ、覗いているんだろ? 弟か妹か、わかるのはまだまだ先だが、生まれてきたら、一度でいいから顔をみせてやってくれ。
おまえの麦わら帽子は、パパとママがちゃーんと預かってるからな。
愛してるよ、ユミ。
END
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