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『 Bookshelf 』は虹屋が自己満足で書いているオーソドックス、二番煎じな創作小説と雑文を公開しているサイトです。なお、毒の強いブラックユーモアと一般書レベルの暴力表現、性表現等が含まれています。ご注意下さい（※詳細は ABOUT 参照）。
※本作は『 TYPE-MOON 』の作品をベースにした二次創作物です※
※この物語は嘘率１２０％です
濃霧に閉ざされた樹海にも朝がやってきた。
ということは、当然ながら、アインツベルン城にも朝がやってくることになる。
別名「風雲イリヤ城」。拉致のメッカ――もとい、意外と誰でも簡単に忍び込める――でもなく、とにかく大変なお城だ。その一角、天蓋付きベッドまでしつらえている豪華な客間のひとつに、見上げんばかりの巨漢を誇る英霊の姿があった。
名はバーサーカー。真名はまだ思い出せない。
もしかすると古代ギリシアの関係者かなぁ――とか、
なんとなく、いろんな冒険に出たことがあったかなぁ――とか、
そこはかとなく、嫉妬深い年増にだけは逆らわない方が良いよなぁ――とか、
そんなことを思い出せはするものの、肝心なことはどうにも思い出せないでいる。
だって、バーサーカーだし。
狂ってるし。
「失礼します」
ドアをノックしたイリヤのメイドの片割れ――教育係のセラが室内に入ってきた。
「おはようございます」
朝の挨拶。でも、バーサーカーは何も応えない。何も応えず、天蓋付きのベッドの上で膝を抱えて体育座りを続けるだけ。だって狂ってるし。
「お嬢様が起床なされるお時間です。お急ぎください」
立ち上がるバーサーカー。
イリヤが起きるなら、隣にいなければならない。
彼は無言でベッドを降りた。
セラがスッと廊下に出た。
背を丸め、ドアを壊さないよう気を付けながら廊下に出ようとする。
すると、盛り上がった僧帽筋がゴリッとドアの上をこすった。
ピタリと止まるバーサーカー。
戦闘以外で城を壊してはいけない――というのはイリヤの命令。だが、このまま進めばドアを壊してしまう。でも、起きた時に隣にいないとイリヤが怒る。時間が無い。進めない。アンビバレンツ。どうしよう。
「……霊体になられてはどうでしょうか」
でも、霊化していると、イリヤが不機嫌になる。
どうしよう。
天秤にかける。起きた時に隣にいない、隣にいるために霊化した。
後者の勝利。
バーサーカーは霊体になり、廊下に出てから再び具現した。
「猿でも判る道理を……」
サラが溜息をついている。でも気にしない。だって、バーサーカーだし。
とりあえず、隣にあるイリヤの部屋に向かうことにした。
だが、ドアを開け、入ろうとしたところで、またもや僧帽筋がゴリッとすってしまう。
ピタリと止まるバーサーカー。
どうしよう。
「……はぁ」
サラの溜息。
でも、バーサーカーだし。狂ってるし。
◇
「お嬢様、朝です。ご起床ください」
窓のカーテンを全て開けたサラが、天蓋付きのベッドの脇から声をかけた。
「んんんっ……」
薄いレースの向こう側、傍若無人なお姫様は目をこすりながら上体を起こした。
「……バーサーカー？」
「■■■っ」
言語化しえないケダモノのうなり声でバーサーカーが答える。
彼はサラと反対の場所、ベッドの脇に膝を抱えて座り込んだ。
そんな彼の方へと、もそもそとお姫様が近づく。
レースのカーテンをたぐり上げ、そのままポフッとバーサーカーの肩にお姫様は抱きついた。
「おはよう、バーサーカー」
イリヤことイリヤスフォート・フォン・アインツベルン。まだ寝惚けているのか、フニャフニャとバーサーカーのごつい肩に頬をすりつけているが、これでも全身に特殊な令呪を刻み込んでいる史上最強のマスターにして聖杯の器として調整された特殊な少女だ。
ただ、バーサーカーには彼女の特殊性が理解できない。
わかることは、彼女が自分のマスターで、守るべき相手だということぐらいだ。
「お嬢様、おやめください。お体が汚れてしまいます」
いつの間に反対側まで回ってきたのか、サラが無表情のままピシャリと言い放ってきた。
イリヤはブゥと唇を尖らせながら、
「もぉ……バーサーカーは汚くないって何度も言ってるでしょ」
「この城に来てから一度も湯浴みをされておりません。いくら霊化すれば汚れが消えるといっても限度というものがございます」
「だったら――」
「なりません」
サラは機先を制した。一緒に入る、など絶対に許されない。
「いいじゃない、別に。それに寝る場所だって――」
「いけません」
バーサーカーを隣室に追い出したのはサラである。たとえ従順なサーヴァントだろうと、殿方がアイツベルンの姫と同じ寝室で夜を過ごすなど、あってはならないことだ。
「でも霊化すれば――」
「お嬢様」
「……もぉ、わかったわよ。バーサーカー、立って」
バーサーカーは立ち上がった。そうして出来た隙間にイリヤがトンッと降り立つ。
「湯浴みする。朝ご飯は？」
「ご命令通り、クロワッサンとハムエッグをご用意しております」
「和風がいい」
「ですが、もうすでに――」
「気が変わったの！ ライスとミソスープと魚のソテーがいい！」
「……承知いたしました。すぐ、ご用意いたします」
サラは一礼し、足早に部屋を出て行った。
イリヤの口元に小悪魔の笑みが浮かぶ。
「バーサーカー、こっち」
言われるままバーサーカーはイリヤのあとに付いていった。
向かった先は隣室のバスルームだ。洗い場も無駄に広ければバスタブも温泉並みに広い。日本風のバスタブを見たイリヤが、ワガママを言って変えさせたのだ。
「一緒に入ろ。ほら、早く」
「■■■っ」
バーサーカーは霊化し、手狭なドアをすり抜け、再具現した。
イリヤはスポポンと服を脱いでいる。
「知ってる？ 日本のお風呂、最初にバスタブの外でお湯を躰にかけるんだよ。あっ、でもバーサーカーって大きいし……そうだ！」
彼女は目を閉ざし、ブツブツと何かをつぶやき始めた。
直後。
――ザバァァァァァァァァァン！
バスタブに張られたお湯が、間欠泉を想わせる勢いで高い天井まで吹き上げていった。
「キャァアアアア☆」
笑顔で頭を抱えるイリヤ。その後ろでヌボーっと立ちつくすバーサーカー。
二人とも全身びしょ濡れになった。
「さっ、入ろ――えいっ♪」
イリヤはバスタブにざぶんと飛び込んだ。
「ほら、バーサーカーも！」
言われた通り、バーサーカーもざぶんと飛び込んでみた。
――ザバァァァァァァァァァン！
「キャァアアアア☆」
湯船のお湯が、半ば以上、飛びだしてしまった。
でも大丈夫。バーサーカーの躰は無駄に大きいので、ゆっくり入っても状況は同じ。
「気持ちいいね、バーサーカー」
「■■■っ」
二人はゆったり、朝風呂を楽しむのだった。
◇
戻ってきたサラが卒倒するという一幕もあったが、朝風呂、着替え、朝食はつつがなく終わり――暇をもてあます時間が訪れた。
「早くマスター全員揃うといいのにね」
適当に拾った枯れ枝をブンブンと振り回しながら、イリヤは樹海の中を歩き続けた。
そのあとをバーサーカーがのっし、のっしと付いていく。
「キャスターはもう出てるんだよ。あと、ランサーもそう。セイバー、アーチャー、アサシン、ライダーがまだ――あっ」
イリヤは立ち止まった。
全身の令呪が赤く輝いている。
「……アサシン、召喚されたみたい」
イリヤはクルッと振り返り、両腕をバーサーカーへと差し出した。
彼はソッとイリヤを両手で掴み、自分の左肩の上に彼女を乗せた。
「あと三騎だね」
右手でゴワゴワの髪を掴み、左手でゴツゴツした頬に触れてくるイリヤ。
重さは無いも同然。
気を抜くと歩くだけで振り落としそうだ。
だが大丈夫。
バーサーカーはギリシアが生んだ大英雄。上体を揺らすことなく歩く程度のこと、躰がバッチリと覚えてくれている。そうでないと走りながら弓を射ることだってできないし。今は弓なんて射らないけど。
「アサシンは今回も同じだとして……ねぇ、バーサーカー。キャスターとランサーって誰かな？ 知り合いだと思う？」
バーサーカーは答えない。
のっし、のっしと歩き続けるだけ。
「多分ね、最初にバーサーカーを呼んじゃったから、ギリシア関係が多いと思うの。トロイア戦争の英雄とか――あっ、ペルセウスとかどうかな？ ペガサスに乗ったペルセウスのライダー。ありそうだよね？」
バーサーカーは答えない。
のっし、のっしと歩き続けるだけ。
別に目的地なんて無い。お城の回りをグルグルと回る。それがイリヤとバーサーカーの日課なのだから。
◇
「たまに訓練しないと躰がなまっちゃうよね」
ということで、巨石がゴロゴロと転がる場所へと向かうことにした。
「いくよー」
イリヤは十数メートル離れた後方に立っている。
バーサーカーは目の前の巨石を見上げた。
二メートルを超える自分ですら見上げるのだから、本当に大きな石だと思った。
思っただけだが。
「せーの……バーサーカーパ――――――――――――――――ンチ！」
言われるまま、巨石に右拳を叩き込む。
ミシッと巨石が凹んだ。
以外と右手が痛い。
でも、気にしない。だってバーサーカーだし。
「もう一発……バーサーカーパ――――――――――――――――ンチ！
ドガッ。
巨石にヒビが入った。
「トドメの……バーサーカーキィ――――――――――――――ック！」
左足で無造作にキック。
ドゴッ。
巨石のヒビはさらに成長した。
「むっ――なんで壊さないのよ！」
イリヤの怒声。
ごめんなさい、頑張ったけど三撃では無理でした。
「今度こそトドメだよ、トドメ！ バーサーカー………ヘッドバ――――――ット！」
頭突きですか。
バーサーカーはえいっと頭突きをかました。
――ドッゴーン！
轟音を響かせながら巨石を一気に崩壊し、大きな瓦礫が飛び散った。
砂塵がもうもうと立ちこめ、バーサーカーを包み込んだ。
「やったぁ☆」
イリヤの嬉しそうな声。
よかった。喜んでもらえて。
「あっ――石斧使えば一発なのかな？ バーサーカーァァァ！ 今度はあっちぃぃぃ！」
振り返るとイリヤは別の巨石を指さしていた。
バーサーカーは巨石の瓦礫を押しのけながら、彼女の指さす方へと歩き出した。
歩きながら、石斧を具現化させる。
ズシリと重い手応え。
躰に力がみなぎる。
弓を持たせれば最強の狩人になるバーサーカーだが、狂っているから弓は使えない。
だから石斧。それでも破壊力は最凶。
「そーれ……バーサーカーアタァ――――――――――――――クッ！」
「■■■■■■■ッ！！」
獣の咆哮をあげながら石斧を振り下ろす。
今度は一撃で巨石が砕けた。
破片の瓦礫が降り注ぐ。
「すごい、すごーい！ ねぇねぇ、今度はあっち！ 早く早く！」
無邪気なお姫様の声。
バーサーカーはのっし、のっしと別の巨石に向かった。
ただ、微妙に思うところもある。
これは訓練なのだろうか？
でも深くは考えない。だってバーサーカーだし。狂ってるし。
◇
昼食のために帰城。午後はお勉強、聖杯戦争に召喚されそうな英雄に冠する神話や伝承の様々な情報を詰め込む時間だ。
「えーっ、もういいよぉ」
イリヤはぶーぶーと頬を膨らませた。
「いけません。これも聖杯戦争のマスターとしての責務です」
サラはイリヤが向かうテーブルにドサッと様々な年代の様々な書籍を積み上げた。
仕方なく、イリヤは読書を始めることにする。
バーサーカーは後ろで待機。
もちろん、体育座り。
「……ふわぁぁぁ」
数時間後、イリヤは欠伸を漏らした。
「バーサーカー、ベッド」
彼は体育座りから胡座（あぐら）をかく姿勢へと足を変え、両腕で何かを抱きかかえるようなカタチにする。そこにイリヤがモソモソと入り込んだ。
胎児のように膝を丸めたイリヤは、バーサーカーの腕の揺りかごにスッポリとはまりこむ……
「あらあら……」
声をあげたのはお茶を運んできたメイドの片割れ、話し相手のリーズウッドだった。
「疲れちゃったのね。あぁ、ちょっと待ってて」
パタパタと部屋を出たリーズウッドは、すぐさま毛布を手に舞い戻ってきた。
バーサーカーの腕で寝るイリヤにソッと毛布をかける。
「イリヤをお願いね」
バーサーカーはジッとリーズウッドを見ると、すぐにその視線を腕の中で寝るワガママなお姫様へと戻した。
その後、彼はピクリとも動かなくなった。
疲れることなどありえないし。
「んんっ……」
イリヤが少しだけ身じろいだ。
「……んっ……ちょっと…………寒いね…………」
彼女は小さくつぶやいた。
そんな彼女を、バーサーカーは抱き上げ続ける。
だってバーサーカーだし。イリヤのサーヴァントだし。
◇
イリヤの惰眠がサラに叩き起こされ、ふくれたイリヤが夕食を一時的に拒否するという一幕もあったが、お城は静かに夜を迎え、バーサーカーもあてがわれた別室に戻る時刻を迎えた。
「あっ――」
部屋に向かう途中、背後から声がかけられた。
振り返るとイリヤの姿があった。
いつも以上に、小さく見えるイリヤの姿が、そこにあった。
「……ううん、なんでもない。おやすみ、バーサーカー」
彼女はニコッと微笑み、寝室に駆け去っていった。
見送るバーサーカー。
階段の奥にイリヤが消えてから、バーサーカーはあてがわれた別室に向かった。
霊化して中に入る。
サラがぶつくさ愚痴をつぶやいた時、これからはそうしろとイリヤが言ったから。
夜はベッドで、というのもイリヤの命令。
だからベッドに乗る。体育座り。でも眠らない。だってバーサーカーだし。
どれほどの時間が過ぎただろう。不意に閉ざされたドアがノックも無しにキィっと開いた。
部屋に差し込む廊下の明かり。
チョコッと顔を突き出してきたのは――イリヤだった。
「バーサーカー、起きてる？」
「■■■っ」
起きていることを伝えるべく、小さな獣のうなり声をあげる。
「…………あの、ね」
イリヤが部屋に入ってきた。
寝間着姿で、大きな羽根枕を抱きかかえている。
「いっしょに、寝る？」
なぜか疑問形。バーサーカー、悩む。
これはどういう命令だろう。
寝る。寝るということはベッド。なるほど、『ベッド』の命令か。
「■■■っ」
彼は胡座をかき、ごつい両腕で揺りかごをつくった。
イリヤの顔がパッと華やぐ。
「うん！」
彼女がパタパタとベッドに駆け上り、昼寝の時にそうしたように、バーサーカーの腕の揺りかごの中にスッポリと入り込んだ。
「おやすみ、バーサーカー」
イリヤは目を閉ざし、数瞬のうちに眠りへと落ち込んでいく。
バーサーカーは動かない。
ジッとイリヤを見る。クゥクゥと寝息をたてるイリヤを見つめる。
「んっ……」
昼もそうだったように、イリヤは寝言をつぶやいた。
「……ちょっと…………寒いね………………」
バーサーカーは命令を遂行した。
ベッドの毛布をソロリと引っ張り、腕ごとイリヤの躰にかけてあげる。
「んんっ…………」
イリヤは毛布を掴みつつ、額をバーサーカーの躰に押し当ててきた。
大丈夫らしい。
これで良し。
彼はそのまま、いつまでもスゥスゥと眠るイリヤの寝顔を見守り続けた。
だってバーサーカーだし。
なんか気持ちが安らぐし。
オチないまま終了
MEMO
「 第１回「Fate/stay night」キャラクター人気投票 」に投稿した、バーサーカー＆イリヤ支援ＳＳ（ほのぼのコメディ路線）。当然、深いことはなーんも考えていません。稟ルートを見る限り、矛盾する記述が山のように出てきます。でも、気にしない。バーサーカーだし。狂ってるし。
ちなみに構想３秒、執筆３時間、推敲５分（素通りとも言う）。実はバーサーカー支援のつもりが、なんかイリヤもいい感じになったので、コンビで支援ってことにしたのは投稿直前だったり。でも気にしない。バーサーカーだし。狂ってるし。
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