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[01]


 物心ついた頃、俺は戦場で槍を構えていた。それは初めて人を殺し、小便をまきちらしながら泣き叫んでいたという記憶でもある。
 ついでに俺は、仲間の傭兵に蹴り飛ばされた。
「泣いてる暇があったら敵を殺せ!」
 それから俺は、“敵”というやつを殺し続けた。
 殺して、殺して、殺しまくった。
 おかげで騎士になれた。
 《殺戮者》なんていう異名も付いてきたが。


 史上最悪の退却戦だ。なにしろ逃げ込む場所がどこにもない。
「いっそ伯爵軍に寝返った方が得かもなぁ」
「ジーク卿、あまり笑えない冗談はお控え下さい」
 馬を並べるひげ面の公爵は、心の底から不愉快とばかりに顔をしかめていた。まぁ、こいつも遠縁とはいえ、王族の一員だ。寝返ったところで待ちかまえているのは、断頭台への階段だけ。不愉快になるのも当然だろう。
 やれやれ。
 戦いはもう、王都を占拠された時点で決着がついている。そもそも腐敗しきった国王軍に、勝機など欠片(かけら)も無いのは誰の目にも明かだったはずだ。
 だいたい、軍規は最悪も最悪、俺でさえ呆れてものが言えないぐらい最悪を極めている。
 まず雇った傭兵の質が極めて低い。行く先々で略奪の限りを尽くすわ、集落の女どもをみんな犯してまわるわ、ついでにめぼしいやつらは随行する奴隷商人に売り払い、商品にならない連中はズラリン、バサリンと虐殺していくわ……
 そうそう。物資も右から左に横流しされているっていう大問題もあるな。こんな状況でも率先して私腹を肥やす貴族どもには頭が下がるよ。どうせ全員、殺されるっていうのに、いったい何のためにため込んでいるのやら。
 ついでに士気も最悪だったな。一応、数だけは総勢二万ってことになっているが、傭兵連中はいざとなれば寝返るだろう。頼りになるのは王族の一族郎党のみ。これが重騎兵五〇〇、槍歩兵一〇〇〇しかいないっていうんだから、もう話にもならない。
 ちなみについでに言わせてもらえば、軍全体の輜重(しちょう)がたったの六〇〇〇、それも王族の使用人を除けば一〇〇〇もいないような有様だ。
 戦争を知らないにもほどがある。兵数と輜重数を合わせるのは基礎の基礎だろ。
 とどめに布陣場所も最悪だ。王都南西に広がる山岳部の盆地。そんな場所に、兵二万、輜重六〇〇〇が天幕を広げている。襲ってくださいと言わんばかりの状況だ。
「無駄を承知で具申いたしますがね、逃げるなら逃げるで、さっさと移動した方がいいと思いますよ」
 俺は一応、公爵にそう告げてみた。
 しかし。
「何を言う! 王都を取り戻すにはこれ以上離れられないではないか!」
 公爵は顔を真っ赤にして怒鳴り返してきた。
 まぁ、そうくるだろうと思ってたさ。
 ついでにここに布陣した本当の理由が、国王陛下のワガママか何かだろうってことも、尋ねる前から想像がついている。
 落ち目もここまでくると見事としか言いようがない。
 面白い戦(いくさ)になりそうだ。
「じゃ、公爵。俺は軽く橋まで行ってみますんで、まさかの時はよろしく――はっ!」
「お、おい!」
 俺は無視して軍馬を走らせた。
 安心しろ、裏切ったりはしないさ。そもそも怯えまくって逃げることしかできない連中を背中から斬り殺したっても面白くないだろ。どうせなら、勝利を確信した勇ましい連中に死と絶望をプレゼントした方がゾクゾクするじゃないか。
 そういうもんだろ、殺し合いの醍醐味ってやつは。


 《兇王》と呼ばれた戦争の達人、カーディル二世が西方世界をまとめあげたのは、今から二〇年ほど前のことらしい。もっとも統一が果たされた直後、当の《兇王》は寿命でくたばってしまった。ついでに不幸な話だが、《兇王》の三人の息子はいずれも愚鈍揃いで、すぐに後継者争いを始めてしまい、ファーディス王国はあえなく分裂。以後、三つの王国は無意味が争いを二〇年も続けているって有様だ。
 それで、まぁ、俺が産まれたのも、そんな戦いが始まった二〇年ほど前のことらしい。
 “らしい”というのは……まぁ、そういうことだ。
 いわゆる戦災孤児。
 誕生日どころか、両親の顔も、故郷がどこなのかも、俺は何もなにも覚えていない。
 思い出せる一番古い記憶といえば、小便を垂れ流し、泣き叫びながら槍を突き出して“敵”を殺していたというもの。あと、その後に敵兵に押さえつけられて、ケツの穴を犯されまくたってことぐらいだ。
 ちなみにそいつの首は、戦場に転がってたナイフでスパッと切り裂いてやった。
 以後も俺は、俺を犯そうとした連中を殺しまくった。
 ついでに“敵”も殺(や)りまくった。
 一応、ガキの命と操だけは助けるようにしていたが、それだって気まぐれの結果にすぎない。それでも、こんな外道を慕ってくれる連中が出てきたんで、俺はそいつらをまとめ、傭兵団を作って方々の戦場をわたりあるき、村を襲い、女を犯した。
 こうして――確か四年ぐらい前だったかな。ガキばかりで構成された俺の傭兵団は西方でもちょっとは名の知れた存在になっていた。半分はガキばかりって部分で有名だったらしいが、もう半分は、俺たちが何事にも徹底的だったって部分で、随分と有名だったらしい。
 “敵”は殺す。ひとり残らずだ。
 身代金なんていらない。身ぐるみを剥げば十分だ。
 貴族だろうが騎士だろうが男だろうが女だろうが、一度でも“敵”になったヤツは容赦なく殺す。それが俺たちの鉄の掟であり、違反したやつは副長だろうと斬り殺した。
 その頃にはもう、俺は《殺戮者》と呼ばれていた。
 なにしろ俺が関わる戦場では、敵になった連中がまず間違いなく半分以上死ぬ。こいつは常識で考えればとてつもないことだ。
 戦争には目的がある。それを達成できないと判断されれば、退却するなり、講和条約を呼びかけるなりするのが普通だ。その目安は初期戦力の三割を失った場合だとされている。この『三割』って数字事態、すでに大敗と同意義だったりするんだが――俺は“敵”の半分を殺す。必ず殺す。逃げる連中も殺す。降伏するやつも殺す。徹底的に殺しまくる。
 こうすると“敵”になる連中も、俺が相手だとわかった途端、自暴自棄になって命がけで刃向かってくる。それこそ、俺の求める瞬間だ。
 そこには人間性も社会性も道徳律も宗教規範も何も存在しない。
 あるのは生き残るための動物的な本能だけ。
 だからこそ、俺もケダモノになれる。
 何もかも忘れ、戦いの興奮の中に身を委ねられる。
 俺が欲しいのは、その先にあるものだけだ。何もかも忘れ、己自身がひとつの剣になる瞬間。その先にある――何度となく、そう感じてきた何か――それが何なのか確かめたい。いつ頃からそう考えるようになったのか、俺自身もハッキリと覚えていないが、とにかく、俺にとって生きるっていうことは“向こう側”を見るために戦うことと同義なんだ。
 おっと、話が逸れたな……
 まぁ、そんなやつが団長をしている傭兵団だから、当然、消耗率は洒落にならないほど激しかった。だからこそというべきか、ついには副長を始めとする面々が反旗をひるがえし、俺を追放しようとした。
 まったく、呆れた連中だ。数で押せば俺に勝てると思ってるあたり、やっぱりガキの集まりだったんだろうな。
 んっ? それでどうしたかって?
 殺したよ、全員。当然だろ? あいつら、俺の“敵”になったんだぜ?
 それでまぁ、その後のことなんだが――なにを思ったのか、西ファーディス王国の国王陛下が俺を騎士として雇いたいと言ってきた。あとでわかったんだが、暴君ヴァーズは女を殺しながらじゃないとヤレないなんていう呆れた変態だったってわけさ。つまり、俺を同類だと思って、誘ってみたってわけよ。
 当然、最初は断った。戦い以外、興味も無かったしな。
 だが、きな臭い噂が聞こえ始め、俺は一転して、白豚の誘いに乗ることにした。
 事件が起きたのは、それから間もなくだ。
 北方で魔族と戦い続けていたラインフォート辺境伯が、暴君ヴァーズに天誅を加えるため、諸侯に呼びかけ、挙兵したのだ。賛同者は多数。わずか一ヶ月の間に伯爵軍は王都に攻め上り、たった一週間の攻城戦で王都攻略に成功。だが、暴君を始めとする王族は取り逃がすという失態を演じてしまい、今は追撃の準備に入っている……というのが現状だ。
 計算づくの行動だろう。
 もし国王軍が反抗戦を仕掛けるとすれば、宿敵のヴァイラント王国に救援を求めるしかない。大義名分を得たヴァイラント王国は一気に王都攻略を目指すはずだが、ここで連中の撃退に成功すれば、宿敵に通じた暴君に復権の余地が無くなり、西ファーディス王国は辺境伯の手に転がり込むことになる。ラインフォート辺境伯とやらが、それを狙っているのは明白だ。
 ところで問題。辺境伯にとって一番イヤな展開とはなんだ?
 答えはひとつ。
 国王軍が救援を求めず、自暴自棄になって戦いを挑んでくるという筋書きだ。もちろん、それで伯爵軍が負けるわけではない。また仮に損害を出しても、ヴァイラント王国との戦いが少しばかり不利になるという程度で、大勢に影響はない。だが、暴君ヴァーズの正当性が――欠片にすぎないが――残ることになる。これは政治的にまずい状況だ。
 だからこそ、そのニオイをちらつかせてやれば、連中はさらに国王軍に圧力を加えようと軍勢を送り出してくる。その中に、俺の獲物がいるはずだ。
 腕の立つ騎士。
 俺を楽しませてくれる“敵”。
 さーて、どんな魚が釣れるものやら……

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